COLUMN 疾患啓発(DTC)活動成功に向けた4つの視点

なぜ疾患啓発(DTC)を実施するのか?

「なぜ疾患啓発活動を実施する必要があるのか?」、「疾患啓発活動における費用対効果(ROI)をどう考えるのか?」、「疾患啓発活動の意味合いは?」など、疾患啓発活動を実施する上で様々な問いかけがあります。会社組織を動かしていくにあたり、根源的な理由を整理しておくことで、経営陣の理解が得られやすくなり、また社内外の賛同者を増やしていくことに繋がります。本稿では、疾患啓発(DTC)を企画・推進していく担当者が、軸足をブラさずにやり抜くための内容をまとめていきます。

 

疾患啓発(DTC)を実施する4つの視点

疾患啓発を企画・推進するにあたっては、左脳的判断軸である合理的な理由をおさえつつ、右脳的判断軸である人々の共感を得る両面からアプローチしていくことが大切です。

疾患啓発を実施する理由

図表1 疾患啓発を実施する4つの視点

 

図表1に記載しているとおり、疾患啓発を実施する上では左脳的な合理的理由と右脳的な共感を得ていく理由の両輪が大事になります。左脳的要因としては、①受診率と競合優位性、②費用対効果(ROI)、右脳的要因としては、③患者と医療従事者からの共感、④会社のビジョンの実現・SDGsへの貢献が挙げられます。この後、順を追って解説していきます。

 

①受診率と競合優位性

疾患啓発を企画・推進するにあたっては、疾患特性を踏まえた患者の受診率、製品の競合優位性を考慮していく必要があります。

受診率と競合優位性

図表2 受診率と競合優位性

 

疾患啓発に向いているのは、疾患の認知度が低く適切な受診に至ってない、疾患予防のための適切な検査・検診の受診率が低い、新たに承認されたばかりの治療法のために治療方法の認知が低いなどが理由で、対象疾患の受診率が低い場合です。その際に提供製品の市場シェアが高い状態であれば、自社製品が処方される機会が増加するため、図表2に記載されている受診率が低くて、製品シェアが高い市場において特に有効な取り組みとなります。

 

②費用対効果(ROI)

疾患啓発を企画・推進するにあたっては、事業活動の一環である以上最低限の費用対効果(ROI)が見込まれる活動でないと、経営陣の納得を得ることはできません。ここでは、一つの考え方として、疾患啓発Webサイトをデジタルマーケティングを活用して取り組む例を想定して解説していきます。

費用対効果

図表3 費用対効果(ROI)

 

図表3では、疾患啓発Webサイトを活用し、病院検索サービスにつなげて適切な受診勧奨をしていく流れを想定しています。従って、まずはWebサイトのアクセス数であるユーザー数(UU)から想定していきます。集まったユーザーの一定割合が病院検索サービスを利用し、更に一定の割合の受診者見込みを想定し、治療見込み数を予測していきます。この際、対象疾患・検査によって違いがあるのと、Webサイトの設計によって仮定値は変わるので、過去の経験を踏まえつつ、ある程度のレンジを想定しておきます。

 

治療見込み予測数を出した後は、治療にかかる回数と単価から、見込み売り上げを計算していきます。関連する医療従事者にも病院検索サービス利用を案内をしている場合は、他の診療科の医師からの紹介という追加見込みも想定されます。デジタルマーケティングを主軸としつつも、MRや紙資材からのサービス案内を通じて、現場の医療従事者がリアルに紹介していくことが想定されるからです。

 

こうして想定された売上予測に対して、投下する投資額との比率を見ることで想定の費用対効果(ROI)を出すことができます。上記の通り、仮定する項目の変数が多いため、双方が納得いく数値に擦り合わせていく必要があります。

 

③患者と医療従事者からの共感

ここまでは、疾患啓発活動を進めるにあたって、左脳的な要因である合理的理由を紹介してきました。ここからは、関係者への共感という右脳的要因から、疾患啓発活動の本質的価値が実現されていく背景を解説していきます。

 

疾患啓発(DTC)とは」のコラムでも記載しましたが、疾患啓発活動は、

 

“疾患啓発活動は患者さん等がある疾患を知らない、あるいは治療法を知らないといったことを周知して、その方々が受診し病気を治療する機会としていただくもので、国民の健康・福祉の向上に資するものです。”

 

と製薬協のニュースレターで紹介されています。つまり、患者さんや患者さんの家族が疾患の正しい知識や情報、適切な検査・治療方法を知ることで、早期発見、早期治療を促しつつ、病気を治療するための認知拡大を実施していく活動ということになります。

 

また、製薬業界における位置づけとしては、メディカルアフェアーズの活動に関する基本的考え方(製薬協 2019)の中で、メディカルアフェアーズの果たすべき役割の一つである『医学・科学的情報の発信、提供』に関する業務の例として、疾患啓発活動(学会サテライトシンポジウム開催、医学・科学的コンテンツ発信)が挙げられています。こうした活動を通じて、一人一人の医療従事者だけでは啓発しきれない情報発信活動を企業が持つ発信力で支援することができます。

 

例えば、医療機器メーカーのメディコン社は、鼠径部ヘルニアの疾患啓発活動として、そけいヘルニアノートという疾患啓発Webサイトを運営しています。鼠経部ヘルニアは、自然に治ることはないため、皮膚の下に出ている腹膜や腸を元に戻すための手術が治療の基本となります。手術をせず放置すると、元に戻らない「嵌頓(かんとん)」状態になる可能性があるため、自己判断せず早めに外科や消化器外科を受診することが大切です。この活動を通じて、鼠径部ヘルニアの正しい情報を提供し、早期診断・早期治療による患者さんのQOL向上に貢献を目指しています。

 

このように疾患啓発活動を通じて、患者さんや医療従事者への情報提供を進めて共感を得ていくことで、適切な検査・治療につなげ、最終的に患者さんのQOL向上に貢献していくことが、本質的な価値の提供となります。

 

④企業のビジョンの実現・SDGsへの貢献

製薬業界全体で、ペイシェント・セントリシティ(患者中心)の流れが加速する中で、疾患啓発活動を推進していく意義を企業のビジョンやSDGsと重ね合わせていくことが社内外の関係者を巻き込む大きな力となります。

 

企業のビジョン

図表4は、2017年にはフォーブス誌の『現代の経営学者100人』に選出され、世界累計で1,000万部超となる『ビジョナリーカンパニー』シリーズの著者であるジム・コリンズが、ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になるためのビジョンのフレームワークをまとめた内容です。

企業ビジョン

図表4 企業のビジョン

企業のビジョンは、会社の指針となる原則と信条の体系である『コアバリューと理念』⇒組織が存続する根本的な理由の『パーパス』⇒大胆で説得力のある野心的目標を表す『ミッション』に分けられるという考え方です。特に疾患啓発活動の目的と、会社の理念やパーパスと一致することが多いので、改めて経営陣を巻き込んで企業のビジョンに立ち返り、社員一丸となって企画・推進していくことが大事な一手となります。

 

SDGsへの貢献

SDGsは、Sustainable Development Goalsの略称で、17の世界的目標、169の達成基準、232の指標からなる2030年に向けた持続可能な開発のための国際的な開発目標です。2015年に国連総会で採択されて以降、学校教育現場をはじめ企業活動に至るまで、地球規模で浸透してきている社会貢献活動となっています。

SDGs

図表5 SDGsの17の目標

 

図表5のSDGsの17の目標の項目3に掲げてある『GOOD HEALTH AND WELL-BEING(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)』が、疾患啓発活動に関連していると考えられます。

 

外務省のSDGsとは?より引用した以下の邦訳を参考に項目3が目指す健康と福祉の開発目標を具体的に見ていきたいと思います。

 

3.1 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する。 

3.2 すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。 

3.3  2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。 

3.4  2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する。 

3.5  薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。 

3.6  2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。 

3.7  2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるようにする。 

3.8 すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。 

3.9 2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。  

3.a すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。   

3.b 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特にすべての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。  

3.c 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。 

3.d すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。

 

2015年の採択当時は、世界的なコロナパンデミック以前ではありますが、こうした時代を予見していたかのような感染症対策への目標が多くみられます。開発途上国における公衆衛生の向上という観点が強く出ている内容ですが、自分たちが進めていく疾患啓発活動が最終的にSDGsが掲げる健康と福祉の向上に繋がっていく筋道を立てていくことは、持続可能な事業活動を続ける上で大切な考え方になります。

 

まとめ

このように疾患啓発活動を企画・推進するにあたって、①受診率と競争優位性、②費用対効果(ROI)の左脳的要因と、③患者と医療従事者からの共感、④企業ビジョンの実現とSDGsへの貢献という右脳的要因の両輪を考え抜いて、社内外の関係者を巻き込むことで、大きなインパクトを出せる活動になっていきます。

 

導入事例はこちら:

旭化成ファーマ株式会社様の事例:骨粗鬆症の疾患啓発「骨検-骨にも検診プロジェクト-」

協和キリン株式会社様の事例:FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の疾患啓発

株式会社メディコン様の事例:鼠径部ヘルニア(脱腸)の疾患啓発「そけいヘルニアノート」

EAファーマ株式会社様の事例:疾患啓発サイトに自社開発の「いしゃまち病院検索」を導入

投稿日:2022年02月01日

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