株式会社メディウィルでは、株式会社ヴァンティブ 代表取締役社長 河野行成氏を講師に招いたオンラインセミナー「ヴァンティブ社が取り組む『透析病院ドットコム』疾患啓発活動の狙い~患者さんに選択肢を~」を2025年5月29日に開催しました。本記事では当日の講演内容を紹介します。
この記事は以下のような方々におすすめです
- ヴァンティブが取り組む「透析病院ドットコム」疾患啓発活動に興味がある
- 自社の取り組みの参考にしたい
- 業界動向に興味がある
目次
はじめに- 株式会社ヴァンティブがかかげるMission –
河野:本日は「いしゃまち病院検索」を提供するメディウィルさんと連携しながら取り組んでいる「透析病院ドットコム」と、この活動における狙いについてお話します。
まずは私たちの会社であるヴァンティブについてご紹介します。ヴァンティブは2025年2月にバクスターから分社化しプライベートカンパニーとして設立されました。弊社のミッションは「EXTENDING LIFES >>> EXPANDING POSSIBILITY(人生に寄り添い>>>希望の未来へ)」です。透析治療に携わる企業ですので、「いかにして慢性疾患を患う患者様の人生に寄り添い、未来を提供していくのか」という想いを込めて、このようなミッションステートメントを掲げました。
ヴァンティブ自体は新しい会社ですが、バクスター時代から70年以上にわたって腎臓ケアに取り組んでいます。バクスターは1956年に最初のダイアライザー(透析器)を作り、日本でのバクスター・ジャパンも1969年設立と非常に長い歴史を持っています。ヴァンティブに分社化後も全世界で2万3000人の社員を有し、日本にも数百人の社員がいます。そして100カ国以上の患者様と1日あたり100万回以上のインタラクションがあります。
ヴァンティブ設立の理由は、スピンオフによって腎臓に特化した企業になることで、よりよい治療法を患者様に提供したいという考えからです。日本では5人に1人が慢性腎臓病であると言われており、国内に約2,000万人の患者様がいることになります。非常に大きな市場であると同時に、大きな課題でもあります。
その中で私たちは血液透析と腹膜透析、さらに急性期における血液浄化装置を提供しています。外資系企業ではありますが、宮崎工場では35年間にわたり日本の患者様のために透析液を提供しています。
私たちヴァンティブ・ジャパンとしては「腹膜透析を今後、日本にさらに広めていきたい」という思いがあります。その中での課題についてこれからお話します。
日本透析治療の現状と課題
皆さんは「透析」と聞くと、どのような治療法をイメージされるでしょうか? 「透析」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、一般的には血液透析でしょう。腹膜透析については、
- 「聞いたことがあるけれど、具体的には知らない」
- 「そもそも『腹膜』って体のどこにあるんだろう?」
- 「全然行われていない治療法なのでは?」
と思われる方もいるのではないでしょうか。
そのように思われるのも当然で、実は日本では腹膜透析は全国的にあまり実施されていません。例えば香港での腹膜透析は7割程度を占め、シンガポールで13%、アメリカでは12%から13、14%と徐々に上がってきている状況ですが、日本は3%と非常に少ないのが現状です。そのため日本では医療従事者も含めて、腹膜透析はなかなか認知されていません。
実際に腹膜透析が3%、血液透析が97%を占める中で、
- 「腹膜透析とはどのような治療なのか?」
- 「本当にいい治療なのか?」
- 「3%の人しか選ばないのだったら、よくない治療法なのではないか?」
と思われる医療従事者の方や患者様もいます。
血液透析とは、大きな針を2本使ってシャント(血液透析を行うために動脈と静脈をつないだ血管のこと)から血液を抜き、きれいに浄化して体内に戻すという治療法です。週3回、年間では153回通院して治療を受ける必要があり、1回あたり4〜5時間かかります。さらに、治療を受けるクリニックや病院に通うために片道30分~1時間、長い人では片道2時間かけて通院するため、拘束時間でみると5〜8時間が必要となる治療法です。
一方で腹膜透析では血液を使いません。お腹の中にある腹膜という臓器を覆う膜にカテーテルを入れ、腹膜液を注入することによって毒物を浄化します。この治療を1日1~3回行います。連続携行腹膜透析(CAPD)と自動腹膜透析(APD)に分けることができ、CAPDの場合は日中に1~4回透析を行い、APDの場合には夜間の睡眠中に透析を行うことも可能です。自由度が高く、通院も基本的には月1~2回程度ですみます。また血液から一気に水を抜かないため、心臓への負荷も小さくなるといわれています。ただ、腹膜透析は限定的な施設でしか実施されていません。
実際に先生とお話してよく驚かれるのが、患者様が何を重視して治療を選択しているかという点です。今まで患者様は生存率を一番重視するのではないかと考えられてきました。しかし実際に腎臓病保存期(透析に入る前の病態)の患者様に聞くと、「趣味や仕事など今の日常生活が続けられる」点を76.8%と1番目に気にされています。また、3番目には「自宅で治療ができる(通院が少ない)」が挙げられています(43.9%)。
透析をするにあたって、
- 「週3で医療機関に通うのは大変なのではないか」
- 「(高齢者の方であれば)家族の付き添いや送り迎えが必要になり、迷惑をかけるのではないか」
といったことを気にされる方が多いことが、このアンケート結果からもわかると思います。
次に腹膜透析を行っている患者様およそ1500人を対象に行った調査では、「腹膜透析を行っていなかったら仕事や趣味など、やりたいことを諦めていたかもしれない」と回答された患者様が85%、「(腹膜透析を行ったことで)自分らしいライフスタイルを過ごせている」と回答された患者様が78%と圧倒的に多く、約8割と非常に高い満足度となっています。
そこで、満足度が高い治療であるにもかかわらず日本では透析患者様の3%しか占めていない腹膜透析を知ってもらうために、どうしたらわかりやすく提案できるかを考え、2024年末からメッセージを変えました。先ほどのアンケートにもあったように、患者様が最も気にすることは、「自分のライフスタイルがどう変わっていくか」「これからどういう人生になっていくのか」という点であるにもかかわらず、腹膜透析の「家で透析治療ができる」という部分があまり知られていませんでした。
そこで、在宅で治療できることが見ただけで、聞いただけでわかるようなメッセージが必要だという考えから、腹膜透析に対して「おうち透析」という名称を提案しました。その背景には、患者様は医師の先生から「そろそろ透析を始めましょう」と告げられた際に、「どういった治療法があるのか」ではなく、「今後どのように生活が変わるのか」を気にされているという実情があります。さらに腹膜透析を積極的に行っている施設では、治療法の説明よりも、腹膜透析がもたらすライフスタイルとは、そして血液透析がもたらすライフスタイルとはどういったものなのかという点から説明をしているとも伺いました。
そこで、私たちも患者様がイメージしやすいように「治療重視」ではなく「生活重視」の表現にメッセージを変えていきました。腹膜透析の場合は在宅で実施できるので「おうち透析」、血液透析の場合は通院する必要があるため「通院透析」としています。
さらに前述の約1500人の患者様を対象とした調査では、腹膜透析の治療法を知った場所について約9割の方が「病院」と回答されています。さらに「腹膜透析が実施できる施設を増やしてほしい」と答えている方も約7割いることがわかっています。ここで重要なのは「腹膜透析について病院で知った=それまでは知らなかった」ということです。つまり腎不全になった際の治療法の選択肢にひとつである腹膜透析の情報がそもそも特定の病院でしか提供されておらず、腎不全になったときの治療法の選択肢が「血液透析」「腹膜透析」「臓器移植」という3つの道に分かれているとすると、腹膜透析という道はあまりにも細すぎるのです。
患者様の多くが「そろそろ透析をやりましょう」と言われたときの心情を、「もう人生が終わったようだ」と表現します。その中で私たちのミッションステートメントにもあるように、患者様に希望の未来をお届けしたい、「そろそろ透析だと言われたとしても、自分のライフスタイルを諦めなくてもいい」ということをメッセージとして伝えていきたいという思いで、この活動を行っています。
こちらのグラフも興味深いデータで、実際に腹膜透析を行っている病院と行っていない病院を対象に行ったアンケート結果をもとにしています。このアンケートの中で99%の先生が「患者さんへ腹膜透析に関する説明をしている」と回答しているにも関わらず、患者様に聞くと37%しか「腹膜透析の治療法を病院で医師から説明されていない」、つまり「そもそも腹膜透析という選択肢があることすら言われていない」と認識していることが、最近の調査でわかっています。患者様のおよそ3人に2人は、そもそも腹膜透析という選択肢があったことを知らなかったのです。
また、我々がいくら「おうち透析」を周知したとしても、現在日本では透析を行っている医療機関約5400施設のうち、約5000施設が血液透析のみを提供されている施設で、腹膜透析を積極的に行っているのは約400施設しかありません。そのため患者様がいくら「おうち透析」に興味があったとしても、血液透析しか実施していない施設に通院している場合は腹膜透析という選択肢が提供されません。たまたま「おうち透析」を実施している施設に通っていた患者様が、たまたま腹膜透析という提案をしてもらえたことで、その選択肢が得られただけなのです。
日本では年間約4万人の患者様が血液透析と腹膜透析を導入しています。今まで述べてきたような状況下で患者様に腹膜透析という選択肢が提供されず、多くの方が血液透析を選んだ結果、腹膜透析が占める割合が3%から増加しない状況になっているのではないかと私たちは考えています。
このような状況の中で私たちは分社化前のバクスター時代から長年にわたり、営業努力・マーケティング努力で腹膜透析を行う施設数を400から伸ばそうとしてきました。しかし血液透析と違って腹膜透析は限定的な施設でしか提供されていないため、なかなか広めるのが難しい治療法となっていました。仮にある先生が腹膜透析を始めたとしても、その先生が開業して透析を実施している施設を離れてしまったり、透析を提供できない施設に移られたりすることで実施できなくなるといった事情もあり、ここ数十年で見ても腹膜透析を実施できる病院の数が400施設程度からなかなか変わらない状況が続いていました。
そのため「おうち透析」を実施するにあたって、まず患者様に「おうち透析」を認知していただくだけでなく、「おうち透析」を提供している病院を選んでいただかないと、そもそも治療の選択肢が与えられないことに気づいていただく必要があるのではないかと考えるようになりました。
患者さんに寄り添う言葉の選択「おうち透析」
そこでヴァンティブとしても何か施策を打てないかと模索する中で、メディウィルさんが提供する「いしゃまち病院検索」のサービスにたどり着きました。メディウィルさんのミッションステートメントには「患者さんを最適な医療につなぐ」とあり、まさしく私たちが掲げる「人生に寄り添い>>>希望の未来へ」という想いと一致するのではないかと感じました。
患者様は自分のライフスタイルに合った治療を選択しようとしても、そもそもどこの病院や診療科に行けばそれが叶うのかがわかりません。私も循環器内科と腎臓内科の領域でさまざまなビジネスに取り組んできましたが、ある病気になったときに「どこの病院に、どういった治療の選択肢があるのか」という情報をインターネットで調べても、なかなか出てこないのです。患者様のライフスタイルに合った治療の選択肢を提供する医療機関を患者様が認識し、選ぶことができる未来を実現していければ、腹膜透析という治療法を世に広められるのではないかと考え、メディウィルさんにコンタクトをとりました。そして「いしゃまち病院検索」を導入することによって、患者様がそのような選択肢を得られるという意見で合致しました。
もともとメディウィルさんが提供している「いしゃまち病院検索」のサービス内容として、「透析を提供している医療機関を調べる」というオプションがすでに用意されていました。このサービスのよい点は、検索した場所や駅が位置する半径から近い医療機関を、都道府県を限定せずに近い順番に検索結果として出してもらえることです。都道府県別に分かれていると、県境に住んでいる患者様はいちいち県ごとに検索しないといけなくなりますが、「いしゃまち病院検索」ではそのような必要がありません。そういった機能面についても好ましく思い、メディウィルさんに「おうち透析」のマーケティングに関する相談をしました。その結果、ヴァンティブ用に「おうち透析」について検索することができる以下のようなカスタマイズをしていただき、より一層いいWebページになりました(「透析病院ドットコム」はこちらから)。
- 「おうち透析」と「通院透析」の両方を実施している医療機関を新たに検索できるようにしていただきました。
- SEO対策も兼ねて「透析病院ドットコム」という目的がわかりやすく検索しやすい名前をつけました。
- 水色を使用したシンプルなサイトデザインから、ヴァンティブカラーの紫を使用したものに変更し、「透析病院ドットコム」という名前も目立つように配置していただきました。
- 「ライフスタイルに合った治療法を相談できる病院を検索」といった文言も追加しました。
「透析病院ドットコム」に掲載している医療機関は、血液透析と腹膜透析の両方の治療を提案している施設です。なぜならば、このWebサイトの目的は患者様のライフスタイルに合った治療に関する情報発信であり、腹膜透析だけ・血液透析だけをやっている施設では選択肢が提供できなくなってしまうからです。臓器移植も含めたいろいろな療法の選択肢を提供できる病院を対象に我々の営業がひとつひとつ確認し、約400施設をこのWebサイトに掲載することができました。この準備にも営業と本社も含めて3~6ヶ月程度かかっています。当初は約300施設から始まり、2025年5月時点で400施設に到達しています。先ほども説明したように透析を実施している施設は約5400施設あり、各施設における「おうち透析」の割合は平均して3~5%程度になりますが、「透析病院ドットコム」に掲載されている400施設に限っていえば「おうち透析」の普及率は約20%になり、全国平均の約3%を大きく上回っています。
私たちの目標は「透析病院ドットコム」というWebサイトの存在を患者様に気づいてもらい、そこに掲載されている病院を選んでいただくことです。そうすれば私たちが「おうち透析」を強く啓蒙しなくても、そもそも患者様が通う病院で「おうち透析」を積極的に導入しているため、患者様の選択肢が広がるいい流れになるのではないかと考え、活動しています。
また、患者様にこのWebサイトを知ってもらうために大切なSEO対策がまだまだ十分にできていませんでした。そこで「透析病院ドットコム」を認知してもらうために、2024年10月からCMを始めました。
CM内では、まず「通院透析」と「おうち透析」という2種類の治療法があることを伝えています。そしてCMの最後で患者様に次の行動として「透析病院ドットコム」を検索してもらえるように、スマホの画像を表示して検索を促すことで、行動変容が起こせるのではないかと考えました。このCMを2024年10~12月にかけて約20の都道府県で流しました。メッセージとしては、「透析には『通院透析』と『おうち透析』があり、『おうち透析』や『通院透析』を選びたいなら、まずは病院検索を通じた病院選びから始めましょう」という内容で支援を行いました。
さらにはYouTubeでも「透析病院ドットコム」の活動をすることによって、治療の選択肢があることを2024年10月頃から発信しています。おかげさまでチャンネル内の動画全体で620万再生を記録しました。チャンネル登録人数は2025年5月時点で約9500人と、順調に伸びています。YouTubeにおける最大のメッセージは、病院選びの重要性です。病院を選ばないと「おうち透析」と「通院透析」という選択肢を得ることができないと気づいてもらうことを目指しています。
まとめ -株式会社ヴァンティブが描く理想の未来-
今まで紹介してきた内容をまとめると、日本においては「おうち透析」か「通院透析」という選択肢が提供されていない施設がほとんどというのが現状です。そのため「おうち透析」の導入率は3%程度にとどまっています。我々が描く理想の未来とは、患者様に自身のライフスタイルに合った治療法を選択できる病院を選んでもらうことです。患者様には「おうち透析」という選択肢がありますが、その選択肢はどこの病院に通っても得られるわけではなく、「おうち透析」を提供している病院に行く必要があります。では「おうち透析」を提供している病院がどこにあるかというと、メディウィルさんが運営する「透析病院ドットコム」のWebサイトに掲載されています。
私たちは他にも新聞広告や自社のWebサイトである「いっしょに考える腎臓病」など、さまざまな形で啓発活動をしていますが、最終的な目的は患者様に病院検索サイトである「透析病院ドットコム」へ来てもらい、多くの患者様が「おうち透析」を選択できる世界を実現していくことです。
2024年10月から「透析病院ドットコム」は本格的に稼働し始め、2025年5月時点でユニークユーザー数が約40万人に達しました。その中で実際に駅名や住所などで検索した患者様やご家族の方は約10万人います。つまり4人に1人が行動を起こして病院検索をしてもらえたことになります。
日本での透析導入は年間4万人です。繰り返しになりますが、そのうち3%しか腹膜透析を選んでおらず、非常に少ない人数となっています。この4万人のうち1000人でも「透析病院ドットコム」に来ていただき「おうち透析」が選択できる病院に行っていただければ、「透析病院ドットコム」に掲載されている約400施設では平均して20%の方が「おうち透析」を選ばれているので、200人が「おうち透析」の患者様になるのではないかと考えられます。我々としても、実際に「透析病院ドットコム」内で病院検索をした人数が約10万人いることは、いい感触だと思っていますし、先生からもCMを見て病院に来た患者様が非常に多いと聞いています。具体的な数字は言いませんが、実際にCMを見て病院を選び腹膜透析を始めた患者様も、もう3桁の人数まで増えています。
先生からも患者様に対して「CMを見て『おうち透析』がやりたいと思ったのなら、一緒に頑張ってみましょうか」という話をしてもらっています。先程のアンケート結果にもあったように、患者様が「おうち透析」を知ったきっかけの90%が病院であるため、今までは先生が治療の内容を1から10まですべてを説明しないといけませんでしたが、弊社のYouTubeなどを見ていただいた方には事前知識があるため、説明も楽になると医療従事者からも非常に好評です。この取り組みは間違っていないと、弊社としては考えております。ヴァンティブは透析治療のあたり前を変えたいと思っています。その支えになっているのが「いしゃまち病院検索」であり、このサービスを通じて患者様に選択肢を提供しています。
質疑応答(抜粋)
Q.どのようなディスカッションを経て「おうち透析」という命名が行われ、わかりやすいメッセージが作られていったのでしょうか?
河野:まずメッセージを作った背景についてお話します。先ほど「透析病院ドットコム」に掲載されている施設では約20%の患者様に「おうち透析」を提供できていると言いましたが、実はその中の上位10施設では「おうち透析」の割合が50%程度に達している施設もあるのです。そのような施設で積極的に腹膜透析を実施している先生と話すと、SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)の過程で、患者様に「腹膜透析と血液透析という治療法がある」ということを説明するのではなく、「患者様がどのような人生を過ごしたいか」を確認しているそうです。私自身、この業界に入るまで腹膜が体内のどこにあるのかもわかっていませんでしたから、患者様もいきなり「腹膜透析」と言われても、驚きが勝ってどんな治療法かイメージできないのではないでしょうか。
「透析に人生を合わせるのではなく、人生に透析を合わせるべきで、透析によって夢を諦めるようなことはしてほしくない」と、その先生は患者様に説明されているそうです。現役世代で仕事を続けたい方、アクティブシニアで趣味を続けたい方、「家族に迷惑をかけずに通院できるので、週3で血液透析をするほうがいい」と思っている方など、さまざまな考えの患者様がいます。このようにライフスタイルをベースに話した結果、およそ50%の患者様が、腹膜透析を選択する結果につながっているとのことでした。
家で透析ができることが腹膜透析の一番の利点であるのなら、そこを全面的に推すべきだと社内で考えて、当初私からは「在宅透析」という名称を提案しました。その後検討を重ねるうちに、ある社員が最近では「おうちでご飯」とか「おうちで○○」といったフレーズが使われていることから「わかりやすく『おうち透析』という名前にしたらどうですか」と提案してくれたことがきっかけで、「おうち透析」という名称が決まりました。
その後は半年~1年ほどかけて、透析に取り組む高名な先生方のところを回って、おひとりずつ今のお話をしていきました。その際に「医療従事者向けにはちゃんと『腹膜透析』という言葉を使うので、社外向けのメッセージとしては『おうち透析』で統一させてください」とお伝えしました。CMを流す前も準備に1年程かけて、メッセージを作り上げていきました。ありがたいことに、最近では学会でお会いした先生や看護師さん、技師さんからも「おうち透析」と口にしてもらえることがあり、光栄に思っています。
Q.疾患啓発をするにあたってコンプライアンスや業界の広告規制などが厳しい中で、「腹膜透析だけを推さずに、選択肢を提示する」という方針に落ち着いて実現できる手前の段階において、コンプライアンス・広告規制関係の問題をどのように解決していきましたか?
河野:最初に社内で考えた時点では、透析市場はある意味でバイアスがかかっている印象でした。治療に取り組んでいる約5400施設のうち約5000施設は血液透析しか提供してないうえに、腹膜透析を実施している施設であってもアンケート調査の回答にあったように患者様が「腹膜透析という選択肢を提示されていない」と感じているのであれば、「疾患啓発の際に、腹膜透析と血液透析という治療法の選択肢を両方提供できる施設を掲載するのは問題ないのではないか?」という点が議論になりました。
この是非については社内だけでは結論が出ないと判断し、今から1年ほど前に医療機器業公正取引協議会(公取協)に直接確認したところ、「腹膜透析だけを提供する医療機関のみを掲載することは問題があるが、他の治療法も含めた選択肢を提供するのであれば何の問題もない」という回答が得られました。基本的に腹膜透析を実施している施設は血液透析も実施しているため、「腹膜透析だけを実施している医療機関」を提示することは状況的に不可能です。最大のハードルが解消され、道が開けた瞬間でした。そのため、両方の治療法を提供できる医療機関だけを掲載する形になりました。
Q.疾患啓発活動で必ず聞かれるのが、ROIをどのように考えていくかという点です。「透析病院ドットコム」の場合は、「何人が検索して、何%が実際に病院へ行ったか」という点が該当するかと思いますが、この疾患啓発プロジェクトのROIについてはどのような観点で考えていますか?
河野:我々の場合はROIが比較的わかりやすくなっています。というのも患者様の家に直接腹膜液を送っており、ひとりひとりと連絡をとっているからです。実際に「CMを見て『おうち透析』のことを知りました」と弊社のカスタマーサービスに直接言っていただけることもあり、ある程度は効果が見えている部分があります。
また、ROI測定は大切ですが、慢性期疾患を対象にしたキャンペーンですので、すぐに結果が出てくるとは思っていません。これから1~2年かけてやってみて、伸びるかどうかを長期的に見ていくしかないと考えています。そこまではROIはプラスではないかもしれませんが、腹膜透析の普及率が3%という状況を変えるために、予算をCMや「透析病院ドットコム」に回しています。実際に現時点で3桁台の患者様がYouTube視聴をきっかけで「おうち透析」を選択肢していただいていますし、手応えは会社全体で非常に感じています。
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