COLUMN 旭化成ファーマ大黒氏講演まとめ~ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティング活用方法~

旭化成ファーマ株式会社の大黒聡氏を招いたオンラインセミナー「ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティング活用方法」を2022年1月27日に開催しました。本記事では、当日の講演内容をまとめます。

※弊社は旭化成ファーマ株式会社様が運営する骨粗鬆症の疾患啓発「骨検-骨にも検診プロジェクト-」をご支援しました。

導入事例

骨粗鬆症を取り巻く現状と課題

骨粗鬆症による骨折のリスク

骨粗鬆症とは「骨がスカスカになって折れやすくなっているもしくは既に折れているような状態」を言います。閉経による女性ホルモンの低下に伴い骨密度も低下することが一般的に知られており、男性と比較して女性に身近な疾患と言えるでしょう。実際、患者数が推定1280万人1)いるなか、女性は60代の5人に1人、70代の3人に1人、80代で2人に1人の割合2)で骨粗鬆症を発症しているとされています。骨粗鬆症で気を付けたいのが骨折ですが、大腿骨骨折者数はこの20年間で2倍に増加3)しており、今後高齢化に伴いその数はさらに増える見込みです。

骨折は要介護となるリスク因子として知られています。大腿骨の骨折を見ると、国内では3分に1件の頻度4)で発生、そのうち3人に1人は元通りに歩けなくなり5)、4人に1人は介護に移行してしまいます6)医療財政におけるインパクトも大きく、骨折にかかる年間の医療費は1.4兆円7)、介護費用になると1.1兆円8)、さらに家族の介護負担を含めると0.8兆円9)となり、合計で3兆円以上の費用がかかると試算されています。骨折が原因で介護が必要となった場合の費用は5年間で1,540万円10)となり、患者さんご本人・ご家族のQOLや経済的な負担は大きく、骨粗鬆症はこれから持続可能な社会を実現していく上で重要な社会課題の一つと認識しています。

骨折のリスク

ボトルネックの特定

旭化成ファーマ株式会社は「骨粗鬆症による骨折を理由にやりたいことをあきらめる人をゼロにする」というビジョンを持って日々活動するなか、40年に渡って骨粗鬆症の治療薬の研究開発、製造販売に携わっています。弊社や他の製薬企業から多彩な治療薬が出ており、骨粗鬆症による骨折を起こさせない環境はかなり改善していると思われますが、(大腿骨の骨折者数が増加しているように)いまだ解決できていない課題が多々あるとも感じています。

骨粗鬆症の課題を特定していくために患者や医師など関係者にヒアリングを行った結果、大きく5つのボトルネックがあると仮説を立てることができました。

  • 骨粗鬆症の早期診断~治療開始が出来ていない
  • 骨粗鬆症や骨折予防に適した環境が整っていない(住環境、日常生活)
  • アドヒアランスが低い
  • 患者が必ずしも最適な治療を享受できていない
  • 二次骨折を防ぐための退院後の治療・食事・運動療法が続いていない

さらに、立てた仮説をもとに課題を大きく3つにまとめました。

  • 課題①:そもそも骨粗鬆症は気づきにくい疾患であること
  • 課題②:骨粗しょう症や骨折の予防が不十分であること
  • 課題③:治療や運動を続けにくいこと

これらの課題の結果、二次骨折が起きてしまったり、寝たきりとなるリスクが高まっていくというさらに大きな課題につながります。

3つの課題

疾患啓発活動「骨検」の紹介

課題に対する打ち手

多くの課題がある中、まず課題①(そもそも骨粗しょう症が気づきにくい疾患であること)にフォーカスした取り組みに着手しました。課題①をペイシェントジャーニーを作って細分化したところ、「検査の受診率が低い」「確定診断まで至らない」ことなどが問題点として浮かんできました。

検査については超音波を使った簡易検査が多く取り入れられていて、タッチポイント(薬局や健康セミナーでの簡易検査、疾患啓発のホームページ、自治体の節目検診等)も存在しています。現在全国の6割程度の自治体が骨粗鬆症検診を実施していますが、受診率は全国平均で5%11)の割合で推移しており、多くの方が検査を受けていない状況と推察しています。また、検査を受けて「要精密検査」と結果が出ても、そこから精密検査を経て確定診断まではなかなか至らないというボトルネックがあることも分かってきました。

課題に対する打ち手

このような課題に対して、まずは「骨粗しょう症を正しく理解してもらうための情報の発信」や「相談できるコールセンター」が必要だと考え、優先的に取り組み始めました。

Webサイト制作の進め方

Web制作の進め方

私が疾患啓発活動を目的としたWebサイト制作に携わるのは、今回が初めてでした。最初に「社内提案」というフェーズがありましたが、実はここに一番時間を費やしました。まず関係者へのヒアリングやボトルネックを特定する作業を行いつつ、社内の合意形成を取るために自分がやりたいことをしっかりと提案し続けました。私の説明能力が乏しかったこともあり、提案がスムーズに受け入れられないこともありましたが、諦めずに提案をし続けることで、最終的には上の方にも認めてもらえました。あわせて「(私が所属する)骨領域企画室のメンバーと一緒に考えて提案を」と言ってもらい、部署の多くの方の協力があってやっとスタートできることになりました。

次に、経験のない疾患啓発のWebサイト制作については、まず情報収集をして少しずつ整理していくと同時に、ともにWebサイトを制作するパートナー探しを行いました。社内の決まりもあってコンペ形式を採用し、6社の企業に参加してもらいました。コンペでは13項目の評価ポイントを設定し、社内の複数の部署関係者10人がそれぞれの観点で点数を付け、公平な社内審査を行っていきました。各社から本当に素晴らしい提案をしてもらい私自身勉強になることばかりでしたが、その中でも一番寄り添ってもらえるというか、右も左もわからない我々に目線を合わせて分かりやすく説明してもらったり、本当に私達がやりたいことに近いことが実現できそうな提案をしてもらったメディウィルさんを選択しました。その後は要件定義やキービジュアルの作成などWebサイトの制作作業を進めていきました。業界の特性として審査が大変だった実感はありましたが、色々な方に協力してもらいながら頑張って進めていった形です。

Webサイト「骨検」及びコールセンターをオープン

2020年12月、Webサイト「骨検」及びコールセンターをオープンしました。私の感覚の中で「健康診断などで色々な部位の検査をするのに骨の検査はあまり行われていない」という思いがあったため、「骨検」には「どうか骨にも検診を」と願いを込めて命名しています。

Webサイトとコールセンターは、骨粗しょう症や骨検の認知を上げていくための様々な施策(新聞広告や病院内での広告、デジタル広告など)の受け皿として最初に作ったものです。また、Webサイトに来た方が病院で検査をし、骨粗しょう症でなかった方はインフルエンサーとしてぜひ口コミ等で広めてもらうため、治療が必要だった方はしっかり治療していくための導線の意味合いもありました。

「骨検週間」での取り組みについて

さらに認知度を上げる取り組みとして、毎年10月20日が「世界骨粗鬆症デー」であることから20日から1週間を「骨検週間」と題して疾患啓発活動を実施しました。この活動は、25歳時の身長と現在の身長を比較して2cm以上低下している場合は骨粗しょう症を発症しているリスクがあることに着目し、「CHECK−2cm」をキーワードを作成して骨粗しょう症の啓発とリスクに気付くきっかけとなるよう仕掛けた取り組みです。その中でテレビCMをオンエアしたり、ラジオや新聞、ウェブなど様々な媒体で、「CHECK−2cm」のPRを行っていきました。10月20日当日にはタレントの方が出演する記者発表会を設け、実際に身長が2cm低下していないかチェックしようというキャンペーンを実施しました。

「骨検」1年間の振り返り

年間アクセス解析・SEOの進捗

骨検はサイトオープンから1年以上経っていますが、サイトのアクセス数(PV数、UU数)は今のところ右肩上がりで推移しており、概ね順調な滑り出しかなと考えています。検索の表示回数も右肩上がりに少しずつ増えているような状態ですので、これからもどんどん色々な観点から施策を打って強化していきたいと考えています。

KPI・KGIの実績と進捗

我々は病院検索の利用者をKGI、サイトの訪問者数と骨検ウェブサイトから病院検索への遷移数をKPIにそれぞれ設定しました。結果的に、KGIは当初立てた目標の133%を達成することができました。来年度も引き続きユーザーの質や量を底上げするためにSEO対策などをしっかりやっていきたいです。

骨検振り返り

骨折ゼロのまちづくり「宮崎県延岡市との連携事業」

気づきにくい骨粗鬆症。まちぐるみの“見守り”が必要

一方で、私たちの目標はあくまで骨折をゼロにするまで減らしていくことで、Webサイトの運用以外にもやらなければならないことがたくさんあります。冒頭にも申し上げましたが、骨粗鬆症はとにかく気づきにくいことが大きな課題です。骨粗しょう症の検診率は5%しかなく、骨折が起こるまで患者さんが医師の前になかなか現れないこともあります。また、骨折して医療機関を受診したとしても、治療がなかなか続きにくく、医師の前から患者さんがいなくなってしまう現象が起こりがちです。だからこそ、まちぐるみで患者を中心に見守っていくことが必要と言われています。

地域医療・健康長寿に関する延岡市の特徴について

2021年、旭化成株式会社と宮崎県の延岡市は骨粗しょう症による骨折予防を目的とした健康長寿のまちづくりに関する協定を締結いたしました(プレスリリース)。延岡市は大分県に近い宮崎県北部にある地域で、今では当たり前になっているであろう「地域医療を守る条例」を全国の市町村で初めて制定した市町村となります。その背景には延岡市が一度医療崩壊を経験したことがあり、健康長寿の推進市民会議を発足させるほど、自分たちの健康は自分達で守っていく意識が強くあります。

また、延岡市の大きな特徴として、国立循環器病センターと基本協定を結んで「統合データベース」を構築していることが挙げられます。統合データベースとは、国民健康保険や後期高齢者医療、検診、介護など、それぞれ持ち主が違うデータを全て統合したものです。この統合データベースを使えば以下の2点が可能になることに着目し、協定締結後に骨粗鬆症の統合データベースを作りました。

  • 延岡市における現状の骨粗しょう症の課題を定量的に把握できる
  • 延岡市で何か骨粗しょう症の予防の取り組みを行った時にその取り組みが良かったのか、成果が出たのか定量的に解析・評価できる

延岡市の特徴

実施計画の全体像

まちぐるみで骨粗しょう症をゼロにすることを目的とした取り組みの全体像を紹介すると、第1期、2期、3期合計で6年間となります。

  • 第1期…現状把握と現状から見えてきた課題に対する打ち手を策定していくフェーズ
  • 第2期…その仮説を実地検証していくといったフェーズ
  • 第3期…市の事業として試行していくフェーズ

大きく研究チームと延岡の現地活動チームに分かれて活動しています。研究チームは基本的に統合データベースを用いた研究を、私も一員である現地活動チームは現地での調査や解決手段の策定、実地検証を行います。目指す長期的なビジョンとして、市民の方を中心に医療者や介護者、企業や自治体などのプレーヤーがみんなで骨折を起こさないように見守っていくことを掲げています。将来的には得られる全てのデータを連結して見守っていくこともビジョンとして持っていますが、今は段階的に進めています。

今後の展望

今後取り組むこと

今後はPR、特にSNSを活用した取り組みをやっていきたいと思っています。昨年、骨粗鬆症の検査イベントを何回か実施しました。Webサイトでイベントの様子を掲載して疾患啓発することもリニアな貢献として考えられますが、よりSNSを活用してイベントでの体験を拡散できないかチャレンジしていきたいです。

もう一つ、旭化成ファーマ株式会社の社員を対象とした骨粗鬆症検査の補助制度(40歳以上の従業員とその配偶者を対象に骨粗しょう症の検査を全額会社が負担するもの)を、他の企業や健保組合などにも拡大していきたいと考えています。この補助制度は弊社が「骨の検診をしましょう」と啓発する会社であるからこそ、「まずは自分たち従業員の骨が健康であることが一番だ」ということで社長の理解・後押しを得て、骨検のリリースと同時にスタートしました。こういったことに賛同してもらえる企業と積極的にコラボレーションしていきたいと考えています。その一環として、健康博覧会のフェムテックゾーンに骨検のブースを初めて出展し、仲間を集めていきたいと考えております(2022年2月8~10日・東京ビッグサイトで開催済)。

「骨検」が目指す姿

今は「骨検」の活動そのものの認知度がまだまだ低い状態ですので、まずは「骨にも検査」の認知度をどんどん上げていきたいです。その先に、骨粗鬆症は自分とは関係ないと思っている方々に対して、「将来充実したセカンドライフを送るためにも骨の検査を受けておくべきだ」と意識を変えていくことにつなげていきたいです。最終的には、毎年決まった月に骨の検査を受けるべきという皆が当たり前に骨の検査をする世の中になるよう、行動や習慣まで変えていきたいと思っています。

皆さんも大事なご家族や友人がいるかと思いますし、特に女性には身近な疾患だと言えますので、ぜひ骨粗鬆症の疑いがあるか簡単にチェックできる「ワン・ツーチェック」をやってみたり、勧めてみたりしてください。

骨検が目指す姿

Q&Aとアフタートークセッションより

Q&A

「骨検」の内容を充実させるため、まだ何か残っている取り組みはありますか。

例えば栄養面のコンテンツ(どういったものを食事で取ればいいのかというレシピ集など)といった、いくつかローンチ予定のものがあります。(栄養面のコンテンツは2022年2月に掲載済)。あとは骨粗鬆症の知識を得るためのコンテンツがある程度そろってきているなか、もう少し動的な、「検診を実際に受けてみました」というような体験レポートや(被検査者の)生の声などを徐々にサイト内に充実させていきたいです。

「DTCは費用対効果の測定が難しい」点は必ず経営陣に聞かれるかと思います。ROIの説明があったかと思いますが、進めるにあたってどういう点を意識されましたか。

まさにDTCをやる上で皆さん通られるところかと思いますが、ボランティアでずっと行っていくのは現実的に難しく、「これぐらいWebサイトにユーザーが来てもらえれば、自社の製品にこれぐらいのリターンがありますよ」という数値的なものをしっかりと出す必要があります。あとはMRに対する影響というか、もう少し心に訴えかけるような、定性的な指標も打ち出して「(こういったことなので)実施させてください」と訴えることでコンセンサスを得られました。

我々は担当者なので数字を準備して提出しましたが、社長からは「骨粗鬆症のリーディングカンパニーとして、疾患啓発はやるべきだ」と大いに賛同してもらえたのも非常に心強かったです。とはいえ、しっかりと定性的なものと定量的な数字は設定して進めていきました。これからも自分たちのモチベーションを保つためにも、しっかりと目標を数値化できるものは数値化して進めていきたいと思っています。

この一年間の活動を踏まえた上で、高齢者の方々からの問い合わせはコールセンターとWebサイトどちらが多かったでしょうか。

結論から言いますと、圧倒的にWebサイトが多かったです。それもほとんどスマホからの流入でした。

コールセンターについては今後しっかり繋いでいく打ち手も考えています。実際に紙の媒体、例えば新聞などとコールセンターの相性は結構良いと分かってきたため、デジタルだけでなく紙の資材などもうまく活用して、コールセンターの入電数をしっかり上げていきたいです。コールセンターを協業するティーペックさんからも様々なアイデアをもらえるので、色々な仕掛けをしていきたいと思っています。

KGIやKPIの数値を決める際、基準にした指標などがあれば教えていただけますか。

KGI・KPIについては、アサンプションの数字も当然含みます。けれども製剤の売り上げを一旦試算し、そこから逆算して「これぐらいのユーザーが獲得できれば、これぐらいの方が病院検索を通してしっかりと検査を受けてもらえるはず」という仮説に基づいて一旦設定しています。

コロナ禍において何か感じていることはありますか。

幸いコロナで何かが大きく狂ってしまったとか、何か苦労したみたいなことはほぼありませんでした。病院検索への掲載を認めてもらった先生に弊社のMRを通じて許諾をもらっていますが、特にコロナの影響もなく先生方にはしっかり対応してもらえており、そこまで大きな影響はなかったと思っています。ただ、リアルのイベントが中止になるなどは普通にありました。

社内調整にご苦労されたということですが、お話しできる範囲で構いませんので印象に残っている指摘と、どのように大黒さんがクリアされたか教えていただけますか。

弊社は既に骨粗鬆症を専門としたWebサイトを運営していたため、「住み分けはどうするんだ」とか「どういう違いなんだ」という点を理解してもらうのが最初は特に難しかったです。取り組みを理解・納得してもらうまで何度も丁寧に説明していくという、結構泥臭いことを地味に続けていった印象です。

上司に恵まれた点は、かなり大きなポイントでした。企画した当時在籍していた経営企画部の上司は「仕事は自分達でクリエイトするものであって、自分で社長に提案をして自分で進めていくんだ」という方針で、私がこういうことをやりたいと伝えると「それではすぐに提案書を作って来週社長のところに行くぞ」とスピード感もって進めてもらえたので、非常にありがたかったです。

社長と何度か直接やり取りし、最初は全然ダメダメだったのですが、諦めずに上司のほか色々な部署で「こういう取り組みはやった方がいいよね」と 言ってもらえるキーパーソンを見つけて社内の味方を作りながらしっかりやっていきました。振り返ると「人」はかなり大事だったかと思います。

今後の活動としてSNSの活用を上げていましたが、SNSは不特定多数の方の目に触れる点でプロモーションの制約が多くなるのではと感じています。気を付けたい、工夫したい点などはありますか。

SNSは我々まだチャレンジしたことがないため、まずは既に取り組まれている他の製薬会の事例も勉強しながら、一体どういうことができるのか考えたいです。ルールを守るという大前提は当然あるにせよ、我々製薬業界が持っているデータや知見は、緻密なエビデンスなどに基づいて発信しているものばかりだと思います。その確からしいものをいかに分かりやすく伝えるか、どこまで表現が許されるのかこれから探るところから始めなければいけませんが、ルールの範囲内でできるだけ自分たちが持っているものをしっかり出していきたいです。

この仕事をやっていて思うのが、製薬会社の持っているデータは一般の人からしたら非常に価値があり、それをどうにかしてもっと世の中に伝えていきたいことです。頑張って色々突破していきたいと思っているので、様々な業界の先輩方に色々と教えてもらいたいところです。

病院検索後に処方される想定の数字は、市場シェアを設定することで検証されているのでしょうか。定量的に効果はどうでしたか。疾患啓発から病院検索まで移行した後にも実際には検査があり、その後処方となると色々とハードルがあると思うのですが、どうでしょうか。

実際に何%増えましたという数字までは出せないにしても、MRなどを通じて「骨検のWebサイトから検査に興味を持ってきました」と聞く機会が増えてきているので、少しずつ実になってきているのかなと感じています。ただ、やはりどうしてもWebの限界と言いますか、実際にWebサイトをクリックした人がどれぐらい受診しているのか、ちゃんと治療に繋げているのかなどその辺りのデータはしっかり取れていないのが現実です。そうしたデータは、アンケートなり工夫してこれから集めていきたいと思っています。

MRの皆さんにはすごく頑張ってもらい、骨検週間のキャンペーンポスターを病院に貼ることができました。また、「先生にもすごく共感してもらった」「病院のWebサイトに骨検のリンクを貼ってもらえた」「どんどん患者さんが来院している」というようなエピソードを聞いたりしています。そういった意味で肌感覚として、骨検に共感してくれる先生が徐々に増えてきたのかなと思っています。今後もより多くの先生方に共感してもらうことで、MRの皆さんにとっても我々にとっても、Win-Winになるような施策をどんどん進めていきたいです。

先生から「骨検の病院検索に自分の病院を掲載したい」という要望は増えていますか。

先生方から問い合わせてもらえるケースもかなり増えています。「どうぞどうぞ、早く載せてくれ」というような嬉しい声ももらえています。

骨検サイトの特徴として、今のところ病院検索へのコンバージョン率は結構高いです。質の高いユーザーにWebサイトを利用してもらえているという意味では、医療現場とのシナジーみたいなこともしっかり作っていけていると思っており、続けていきたいです。

コンぺの13項目の評価ポイントについて、具体的にどういった評価ポイントがありますか。

未治療者の方を検査・治療へとつながる導線がしっかり描けたサイトを作れるか、という点を主眼に置いています。あとは、ユーザーの反応を見ながらサイトの内容をどんどん改善していけるようなPDCAサイクルをずっと回し続けられるサイトにしていきたい点を柱にして、色々な項目を設定しています。そのほか定性的な、我々に寄り添って骨検の未来を一緒に考えてくれそうかどうかという点も評価項目の一つに入れました。そこは極めて主観が入ってしまうところかもしれませんが、フェアに点数を付けていったところです。

今回はWebサイトでしたが、アプリの検討はされたのでしょうか。

当然アプリで、という話もありました。ただ、まずはしっかりと骨粗鬆症の正しい情報を発信でき、どこで検査が受けられるか分からないなどの疑問にしっかりと答えられる環境を整備することを優先順位の上位に位置づけていたため、チームの合意を得てWebサイトを採用しました。アプリもいずれ作るかもしれないですが、今のところ我々の中でアプリを使って何を達成したいかといった目的も定まっておらず、作る予定はありません。アプリでできることと、我々がしたいことが合致した時に取り組むのかなと思っています。

延岡市との取り組みはどのような背景から提携ができるようになったのでしょうか。また、コラボレーションする中で苦労された点、現在の課題をぜひ教えてください。

もともと、延岡市が今年で創業100周年を迎える旭化成発祥の地であることが大きな背景としてありますが、(講演で説明した)統合データベースの存在を知ったのが最初のきっかけです。骨粗鬆症は本当にデータが集まらないというか、そもそも受診されない疾患ですので、とにかく定量的に把握しにくい課題がありました。このデータベースを使えば、今どういうことが起きているのか数字で見えてくるのでは、と着想した次第です。

データベースを使わせてもらうために社長に提案しながら、延岡支社にも行って説明しました。最初は「やり直して来い」と言われるなど厳しい船出でしたが、徐々に「それはいい取り組みだね、ぜひ延岡でやりましょう」となり、市にも提案して今は健康長寿の取り組みとして一緒に進めています。

アフタートークセッション

弊社代表・城間(以下城間):延岡支社長への提案時に「とりあえず一回出直して来い」と言われた際、そこでやる気が出て諦めずにちゃんと次に向かえる姿勢はどこから来るのですか。

大黒:私は子供が2人おり、根本的には次世代やその次の世代に、この国を今より良い形で引き継ぎたいという思いがあります。骨粗鬆症はある程度「こういうタイミングでこういう予防をしていれば骨折のリスクは減らせる」と分かっている疾患だと認識していて、防げるものは防いだ方が後世のためにも良いのではと思います。これから高齢者が増えるなかどんどん骨折も増えて、若い世代が莫大な介護費用などの負担を背負う世の中になるよりかは、高齢の方でもどんどん活躍して皆がいきいきと生きていける国に子供達が生きて欲しいです。

僕の進め方の問題もあって色々とお叱りを受けたり、ご指摘を受けることもかなりありますが、僕の中で「これは誰かがやらないといけない課題である」という思い、世の中をより良い形で持続させたい思いがなぜかあるため、自分が折れてはいけないと勝手に思い込んで取り組んでいます。

城間:このDXの時代に色々と苦労されている方の話を伺うと、やはり必ずそういうところでつまずくことがあるようです。要は社内で「別に何もしてない方がいい」と思う人にぶち当たって、その段階で止まるケースが多々あると思っています。余談ではありますが、昨年業界の方向けのセミナーをやらせてもらった時、幹部候補の方々と色々なデジタル化の話題で「一番苦労するのは何ですか」と尋ねたとき多く出てきたコメントの一つが「社内の上司を動かすのが大変で、何かやろうとしても止まってしまう」でした。やはり大企業であればあるほど、当然階層も多いし、何かやろうとしても、いきなり社長に行った後でもまた誰かに通さなくてはいけないとか、先のお話を伺っていても恐らく色々あると思います。

まず社長まで行って「お前ちょっと出直して来い」と言われても、段々と味方を増やしていったことが突破口なのかなと思いましたが、社内の味方を増やす際に大黒さんが常日頃から意識されていることはありますか。

大黒:今はなかなかリアルで会える機会も少なくなっていますが、やはり色々な会議などでずっと自分の思いを伝えていると、「(ポソっと)あれいいよね」など反応してくださる方がぽつぽつと現れてくれます。多分どこの会社でもあるかと思います。そういった方と「ぜひ応援してください」とつながっていくと、その方が僕の見えないところで社内の関係者に何か助言してもらえたりして、ある時期を境に風向きが「やってもいいんじゃないか」という流れになりました。

城間:どうしても反りが合わないと言うか、意見が合わない方は出てくると思います。何をするにしてもそのような方が目の前に現れた時、大黒さんはどのように乗り越えていくのですか。

大黒:自分の思いはある一方、その方にも守るべきものがあり、その方なりの正義を遂行した結果の意見だったりする、と最近ようやく思えるようになってきています。今の上司など多くの先輩方に色々と慰めてもらえましたが、やはり相手の立場もしっかり理解した上で、 然るべき時に丁寧に丁寧に、基本的には誠意を持ってしっかりとお付き合いをする気持ちが大事なのかなと感じています。いまだに乗り越えられていない気はしていますが、「相手の立場に立つ」ことは重要な気がしています。

城間:DXを進める中で私自身もよく思うのですが、デジタル化と言っても最後は結局人が判断していかなくてはいけません。そうなると、デジタル施策も結局「人」というアナログ的なところが最後、ボトルネックとなります。これは今も昔も何十年やってきても変わらない、と思うことが最近本当に多いです。色々提案して社内を動かす、あるいはプロジェクトを開始して更にどうしようと悩んでいる方々の中でも、最終的にいかに社内の協力者を得るか、あるいは外部のパートナーの協力者も得るか、大事なポイントかと思います。

ある意味では、「この人は応援したいな」「この人の言うことだったらサポートしてあげよう」など思わせて人を動かす・巻き込むことが、究極的なDX推進の鍵ではないかと自分の中で強く思っています。

大黒:本当にそういう人になりたいですね。

城間:そういう方向に着実に行かれているな、とお話を伺いながら思います。

アフタートーク

アフタートークでの様子(左:旭化成ファーマ株式会社 大黒 聡 氏、右:弊社代表 城間 波留人)

大黒:まだまだです。少し話題から逸れてしまうかもしれませんが、私は2020年に経営企画部の部長へ「新たな会社の企業理念を作りませんか」と提案しました。幣社に元々企業理念はありましたが、私は「医薬品を提供することにとどまらない、新しい価値を提供したい」という思い、そして(この思いを実現していくためにも)会社の企業理念が大事だと感じていました。実際に当時の企業理念を羅針盤にして日々の仕事をできる人がどの程度いるか考えたとき、もう少し私たちがやるべきこと・やりたいこと、「こういう価値を提供していきたい」と思えるものが良いと思えたのです。(骨検プロジェクトのときと同様)このときも部長には「すぐ社長に持っていこう」と進めてもらいましたし、本当に色々な経営層はじめ多くの社員の方に協力してもらったおかげで旭化成ファーマ単独のミッション・ビジョン・バリューを再定義するプロジェクトを開始でき、弊社のビジョン「病気を理由にやりたいことをあきらめる人をゼロにする」を創設することができました。

ビジョンができたことで、「骨折のせいでもっと旅行に行きたかったのに諦めざるを得なかった人っているよね」などと思いを馳せ、「そういう人を1人でも出さないよう我々がやるべきことはもっとあるはずで、その1つが骨検なのでは」というところまでつながりました。また、バリューの1つ(自分たちの健康が全ての始まり)があることによって、「(この一文がある以上は)骨の検査を勧める社員自身の骨がまずは健康でないといけないよね」と社員が骨の検査を受けやすくなる補助制度が生まれました。これらの事例はプロジェクトが皆さんの協力でできたことも大きく影響していることかと思いますし、我々が今取り組んでいる仕事がどこに向いているのかしっかり確認するための羅針盤が必要だと感じさせてもくれました。

城間:素晴らしいですね。大黒さんのお話はすごい重要な観点だと思いました。疾患啓発や患者向けのアプローチは、ROIといった話になるとどうしても効果測定が難しい局面が出てきます。ただ、もう少し大きな視点(活動が会社全体の経営理念やビジョンの方向性と合致しているか)から見たときには、大黒さんの取り組みが説得力を持って多くの方々を巻き込んでいったことも非常に意義深いのではないかと思いました。

1)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.ライフサイエンス p4,2015
2)Noriko Yoshimura, et al.J Bone Miner Metab 2009;27:620-8.
3)Orimo H, et al.Osteoporos Int.27:177-1784,2016
4)Osteoporosis Japan Plus 編集部 Osteoporosis Japan Plus.1:28-,2016
5)久保祐介他. 整形外科と災害外科.61: 21, 2012
6)平成22年 国民生活基礎調査
7)厚生労働省 国民医療費 統計表(2017年版)
8)要介護度別の介護費(厚生労働省「平成28年度介護保険事業状況報告(年報)」)×要介護別 骨折・転倒の割合(厚生労働省「国民生活基礎調査(平成28年)」※熊本県は除外)
9)1日当たり介護時間×365日×人数×時間当賃金 ミリマン・インク「日本における骨折による介護負担とその推移-官庁統計を用いた分析」
10)林泰史, 日老医誌 44;591, 2007
11)The Journal of Japan Osteoporosis Society,vol.4,No.4,513-522

投稿日:2022年03月08日

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