COLUMN 【後編】Medii 山田氏プレゼンまとめ~ライフサイエンス業界におけるAI・デジタルテクノロジー活用の未来~

株式会社EY Japan、株式会社Medii、株式会社メディウィルによる3社共催セミナー「ライフサイエンス業界におけるAI・デジタルテクノロジー活用の未来」が2023年9月26日に開催されました。講師は、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の松本崇志氏(ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネスパートナー)、株式会社Mediiの山田裕揮氏(代表取締役医師/東京医科歯科大学客員准教授)、株式会社メディウィルの城間波留人(代表取締役)が務めました。本記事では当日の講演から、Medii 山田氏の発表パートをまとめます(2回/全2回)。

希少疾患診療において主治医と専門医をつなぐ個別症例相談による医師向け疾患啓発の有効性~診断・処方経験がない医師の行動変容までのジャーニーから~



 

実は、100人のうち5人が生涯治らない希少難病疾患を患うと言われています。こう聞くと、結構多いと感じませんか? 私自身、まさか当てはまるとは予想していませんでした。

患者さんは全員、「まさか自分がこの病気になるとは思っていなかった」と考えています。そんなとき、診断がつかなかったり、診断がついてもこの世のどこかにあるはずの適切な薬剤が処方されなかったり、薬剤の存在さえ知らなかったりする現状が、希少疾患の分野で多く起きています。「5~6%が発症する」といっても、若い世代の働き盛りの方や、これから未来を担っていくような子どもたちがそのほとんどを占めています。私も難病患者としてかなり苦労した経験から、膠原病内科という免疫系の難病疾患をたくさん診察する領域に足を踏み入れました。

希少疾患診療の現場で働く医師として見たとき、素晴らしい薬剤を製薬企業様がリリースしているにもかかわらず、私たち医師全員が薬剤全てを使いこなせていない現状があります。また、働いていて思うのは、一人で診ることができる領域も地域も限られていることです。その疾患に精通したトップスペシャリストの先生方の下に、必ずしも患者さんが集まるわけではありません。こうした希少疾患をとりまく現状を変えるべく、ガイドライン作成にも携わるレベルの専門医と患者さんの主治医をつなぐ可能性をもつ様々なソリューションなどを用いて、医師視点から患者さんを適切な医療機関へつなぐプロジェクトに取り組んでいます。本日は私たちが培ってきた知見を以下のアジェンダに沿ってご紹介します。

  • 情報が溢れ最適な最新情報を求める臨床医のジャーニー
  • 検索ツールに変わり得るChatGPTの可能性と限界
  • 診断/処方経験がない医師が行動変容するためのE-コンサル

情報が溢れ最適な最新情報を求める臨床医のジャーニー

患者さん視点だと現状どのような問題があるか、データで簡単に振り返ります。上図のグラフは、家族制地中海熱という膠原病内科が診る疾患における、地方別の人口100万人あたりの患者数を示したものです。

北海道や九州・沖縄は、北海道大学や九州大学、長崎大学などに詳しい専門医が在籍しており、その地域では患者数が右肩上がりで増えています。一方それ以外の地域では、なかなか患者数が伸びていません。このデータは臨床個人調査票から取っていますが、専門の医師がいる・いないという点で顕著に差が開いています。Mediiでは、このデータを疾患ごとにどんどん追っています。

「診断」、「治療の導入」、そして「治療の維持・継続」という三軸において、それぞれ医師から見たときに課題があります。

診断の段階における悩みの1点目として、単純に診断基準がすごく難しく、診断がまずできないことが挙げられます。これはそもそも疾患を見逃しているパターンで、今日ご参加の皆様も薬剤を発売されている中で直面している悩みではないでしょうか。あとは例えば遺伝子検査のような新たな検査が必要な場合、馴染みがない検査であるからこそ行うべきか悩まれています。

治療導入の段階では、革新的な新薬がリリースされても医師がその存在を知らなかったり、知ったとしても知見がないためなかなか処方できなかったりするという課題があります。使ったことのない薬剤なので副作用についても把握しておらず、また薬価も高いとなると「本当にこの患者さんに使っていいのか」と躊躇してしまいます。

治療継続・維持の段階では、副作用が出てきたときに使用の中止を検討してしまうケースや、遠方から定期的に点滴を受けに来院しなければいけない患者さんに治療を継続してもらうハードルが高いケースなど、様々な課題があります。

医師に「日常診療において診断・治療に困った経験があるか?」と聞いてみると、8割が「はい」と回答しています。では、実際に医師はわからないときどう行動するかというと、患者さん同様Googleで検索して調べます。それでもわからないことは多々あり、「情報収集だけでは解決しない疑問があるか?」という問いに「ある」と回答した割合は9割いました。希少疾患の場合、当然こうした状況が当てはまります。自分で調べてもわからないときの解決策ですが、実は専門医に尋ねるやり方です。「他の医師への相談が必要なケースがどの程度あるか?」という問いに対しては、「月1回以上」と答えた医師は6割以上、「年1回以上」になると9割にも上ります。

医師が踏むジャーニーをまとめると、「患者さんのことがわからない」という臨床疑問が生じた場合、まずは調べます。調べてみてもわからない場合は、専門医に相談し、それでもわからなかったら紹介・転院するようにします。上図の右の部分(「投げる」)についてだけでなく、「調べる」、「聞く」の段階でも、もしかしたらChat GPTが出てくる可能性があるのではないでしょうか。

検索ツールに変わり得るChat GPTの可能性と限界

昨今に話題のChat GPTは現在GPT-4になっていて、アメリカ医師国家試験(USMLE)や日本医師国家試験に合格するレベルにまで進化していますが、そこには2つの問題があります。

1つ目は、最新情報まではなかなか学習させられない見解があることです。希少疾患や新薬となると新しい情報が届いているわけですが、AIが学習しているのは2年前までの情報になるので、いくらプロンプト情報を入れるといっても限界があります。また、専門医が持つ最新情報は外側を調べていてもわからないことが多い、つまり専門医の頭の中にしか存在しないことがあります。そのためChat GPTに学び込ませる一次情報が、そもそも足りていないことも含めて1点目の課題と言えるでしょう。

2つ目は根本的な課題として、Chat GPTは間違った内容を「正しい」と言ってしまうことがあるので、どうしても本質的に信頼・信用しきれないという問題があります。「機械だからこそ」の限界があると感じています。

そこで我々は、尋ねる相手を専門医に設定しています。全国の専門医の方々に一人一人お願いし、近くに専門医がいなくてもご相談し、学びを深めることができる場所を作りました。それが、我々が行っているE-コンサルになります。

これまでも医師たちは学会や講演会で専門医と知り合い、メールアドレスを聞いて相談していました。なかにはMRさんからご紹介いただくこともあったかと思います。そうやって自分たちの目の前にいる患者さんが抱える希少疾患をどのように解決したらいいか、専門医に相談してきてきました。しかし、それでは相談までのハードルが非常に高いので、我々がワンストップで相談できる仕組みを作りました。

診断/処方経験がない医師が行動変容するためのE-コンサル

患者さんの希少疾患に対する課題が解決したら、次は診断と最適な治療に進むことがポイントです。医師にとってはLINEで連絡するような形で、適切な専門医の個人もしくはグループに、患者さんの臨床疑問についてチャット上で相談できる場所を提供しています。匿名で相談ができ、しかも利用料が0円で迅速に回答が返ってきます。

ユーザーの先生方に聞くと「感動しました」と言ってくださる方が多く、「本当にガイドラインを書いているような先生たちが回答してくれるのですか?」とよく聞かれます。全国に多くいる専門医の方々にご協力いただいているので、誰かが回答できる分担制になっています。専門医にとっても、今までは全部メールで直接相談が来ていましたが、チームで対応できるので負担が軽減します。

ここである事例をご紹介します。特発性肺線維症という病態で、肺がボロボロになっている患者さんがいました。以前は薬物治療の選択肢がステロイドしかありませんでしたが、ある企業が抗線維化薬という薬剤を数年前から出しています。ところが、我々医師側にとっては治療が難しかったので、「ステロイドを使っているが、あまり効果がありません。抗線維化薬が登場したものの使用経験がなく使い方がわからないのですが、このタイミングでも使うべきですか」と質問しました。その問いに対して専門医の方々がそれぞれの考えをチャットにおいて説明し、質問をした医師は専門医の知見を学びます。結果として、その医師は専門医から学んだ知見も踏まえて「ステロイドを減らした上で難病申請をして、新しい薬剤を使ってみる」ことになりました。

この事例からわかるように、主治医の先生が専門医からの新たな学びによって行動変容をしています。「難しい新薬をどう使えばいいのか」という課題に対し、従来の広告出稿といったアプローチで医師側が行動変容するかというと、どうしても構造上の限界がありました。

つまり、E-コンサルを使っていただいたときには新たな学びによって診断がついたり、新薬を初めて使ってみるという選択肢が出たりするなど、95%の医師がアクションに変化(行動変容)が起きています。この点はE-コンサルの特徴として覚えてほしいポイントです。

最近はスペシャリティと呼ばれるような希少疾患や希少がん、そして特殊な専門性の高い薬剤領域がどんどん増えていますが、スペシャリティ領域はプライマリ領域とは戦い方が異なっています。

高血圧、糖尿病などがわかりやすいですが、プライマリ領域では薬剤の候補が数多くある中でどのように認知向上させるかが重要である一方、スペシャリティ領域では行動変容が必要になります。しかし、行動変容のためには認知の向上だけでは少し限界がありました。

プライマリ領域では認知向上が重要なので、Push型で送るとどの先生でも一定のニーズがありました。しかし、スペシャリティ領域では、網をかけるようにPush型の広告を打っても全ての医師にニーズがあるわけではなく、関心を向けられるわけではありません。希少疾患かどうかもわからない難渋症例の診断に悩んだり、新しい治療薬の使い方に悩んでいる医師に、的確にPull型のアプローチをすることが、現場の医師視点で考えると必要になります。

プレスリリースで出しているように、我々は製薬企業様と多く取り組んでいます。複数年契約をどんどん交わしてもらえている中でベース成果をそれぞれ出せており、幸いなことに本当に多くのお引き合いをいただけている状況です。

Mediiのスペシャリティ領域へのアプローチに関するポイントをまとめると、問題は患者さんが少ないからこそ、アプローチ方法が今までと異なることです。特に未診断の症例まで視野を広げなければいけない点が1つ目の「少ない」になります。既にKOLである医師が患者さんを診ているケースはピンポイントなので、KOL以外の悩んでいる主治医にも視野を広げなければなりません。

2つ目の「難しい」に対しては、スペシャリティ領域とプライマリ領域では特徴が違うので、これまでの正攻法で挑むのではなく新しいアプローチが必要になります。3つ目の「長い」は希少疾患のジャーニーとして、診断されるまでの時間も長くなりがちですし、新薬を処方しようと思うまでの一押しがどうしても難しい部分です。このあたりは、様々な製薬企業様との案件の中で磨かれたベストプラクティスが見えてきています。全国で数十人しかいないような患者さんや、数万人単位の比較的多めの疾患領域においても、成果が出ています。それは専門医との対話を通じた学びによる主治医の行動変容が肝になっていて、つまり、専門医の知見に触れて学びを深めることで「処方しよう」「診断はこうすればいいんだ」というメイクセンスが医師の中で行われることがポイントだと思っています。

弊社の取組の全体像を紹介すると、医師向けにコンテンツを提供したり、疾患啓発をWebサイトで行ったり、セミナーを開催したりといろいろと取り組んでいます。全てはドクターの行動変容につなげることを目的としていて、これらをきっかけに疾患を知ってもらい「もしかして自分の患者さんもこの疾患かも?」、「もしかしてこの患者さんはこの薬使った方がいいのかも?」という「もしかして」を作り、専門医に相談するプロセスにつなげています。専門医の方々にも、「今まで講演会などで蓄積された知見を届けてみてはどうか」とお声がけしています。診断や治療薬に関する教科書的な知識はあっても、現場で医師がいざ実行するときは勇気いるものです。その背中を押してあげようと取り組んでいます。

ここまできて、皆様の中で「そもそも診断されていなかったら結局難しいのではないか」「希少疾患の薬剤にも競合他社があるのではないか」という新たな疑問が生じているかもしれません。結論から申し上げると、プライマリ領域の時と意識付けを少し変えないといけないと思います。どういうことかと言えば、プライマリ領域は一定の高血圧患者さんといった市場が明確かつ大きなパイがあります。それをシェアとして取り合う、上図左側のようなまさにシェア・オブ・ボイス(業界内で競合他社と比較した際に、どのくらい広告やメディアに露出できるかという指標)が当てはまります。

ところが、スペシャリティ領域は恐らく上図右側のような構図ではないでしょうか。そもそも冒頭のグラフで示したように、まだ診断自体が少なく、患者さんが苦しみ続けている状況です。そのような患者さんを含めて市場をきちんと広げていき、今はまだ10人しか見つかってない患者さんを100人、1000人にした上で、初めて上図左側に移動することができるかと思います。10人の患者さんを取り合うのではなく、患者さんを10、30、100まで皆で増やしていこうということがまずは必要なことだと感じています。

実際にある疾患について協働した取組の例として、全国で30人しかいない患者さんについて実施したセミナーをご紹介します。思った通り88%の医師は疾患の認知がそもそもなかったのですが、上図右側を見ていただくと興味深いのが「もしかしたら自分はこの患者さんを診ていたかもしれない」と振り返った医師が約3割もいたことです。実際に全国で30人しかいないにもかかわらず、我々に多数のご相談やご要望が来て、診断や治療の促進も進みつつあります。

既存の取組との違いをまとめます。今まではセミナーなどを通してKOLのようなトップラインにアプローチできていたが、もしかしたら上図の2段目、3段目の氷山の下の部分にも、アプローチされるべき主治医が全国にいるのではないかということです。

その先生方全員にPush型でアプローチするのは限界があるので、Pull型で患者さんがいるところにアプローチするのが適切ではないかというところを、今回お話ししました。

おわりに

Mediiは医師に向けて、医師の悩みを解決に導くサービスを提供していて、そして専門医の方々とともに、あるべき診断とあるべき治療選択を行動変容という形で目指しています。製薬企業の皆様から素晴らしい革新的な薬剤を届けてもらっているので、それがきちんと使われることで製薬企業様のビジネスにプラスが生まれます。その対価の一部をいただくことで、サービスを回しています。そして専門医ともに、患者さんの診断と最適治療が進む世界を作っています。ご清聴ありがとうございました。

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投稿日:2024年01月29日

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