COLUMN 【前編】メディウィル城間プレゼンまとめ~ライフサイエンス業界におけるAI・デジタルテクノロジー活用の未来~

株式会社EY Japan、株式会社Medii、株式会社メディウィルによる3社共催セミナー「ライフサイエンス業界におけるAI・デジタルテクノロジー活用の未来」が2023年9月26日に開催されました。講師は、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の松本崇志氏(ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネスパートナー)、株式会社Mediiの山田裕揮氏(代表取締役医師/東京医科歯科大学客員准教授)、株式会社メディウィルの城間波留人(代表取締役)が務めました。本記事では当日の講演から、メディウィルの発表パートをまとめます(1回/全2回)。

・【後編】Medii山田氏プレゼンまとめ~ライフサイエンス業界におけるAI・デジタルテクノロジー活用の未来~はこちらから

ペイシェントジャーニーに添った※1疾患開発(DTC)の活用事例

※1 メディウィルでは、ペイシェントジャーニーにまつわる活動のなかで患者さんの心にも寄り添いたいという思いを込めて、「沿う」ではなく「添う」の漢字を使用しております。

弊社の簡単な紹介、そして我々が2006年から展開しているインターネットサービスの経験を踏まえた「ペイシェントジャーニー」から考えた疾患啓発、実際の取り組みや事例をお話します。

メディウィルの医療業界に特化したデジタルマーケティングソリューション

弊社は2006年に創業した会社です。最初はクリニック・医療機関様向けのデジタルマーケティングとして、医療機関のWebサイトを構築するなどして患者さんとインターネット上でつなげていくご支援をしてきました。2014年には昔一家に1冊はあった「家庭の医学」のオンライン版を作るコンセプトの下、Webメディア「いしゃまち家庭の医療情報」を立ち上げ、ピーク時は月間約2,000万PV(Page View)を記録するほどになりました。その後、患者さんの「最終的にどの病院に行けばいいか分からない」という悩みを解決すべく、症状から医療機関を案内する「いしゃまち病院検索」サービスを2018年にリリースしました。同年に開催されたキリンアクセラレータープログラム※2」に採択いただいたご縁をきっかけに、キリングループ傘下の協和キリン様をはじめ、多くの製薬企業・医療機器メーカー様向けのデジタルマーケティング支援を行っています。

※2 キリンホールディングス株式会社(キリンHD)が主催。「Make A Future With KIRIN」をキーワードに、健康的で豊かな未来の創造に向けて、起業家・事業家と協働するプログラム。

我々は特に患者さん向けの疾患啓発に注力しています。デジタルマーケティングと一口に言っても、細かく見ていけばデジタル戦略支援、デジタル広告運用、SEOなど多岐に渡ります。生成AIとの絡みでいえば、特にWebサイト制作が関係してくるでしょう。画像を大量に作る必要があり今は試行錯誤していますが、画像生成AIを活用することで例えば広告ひとつとっても様々なパターンのバナーを作ることが可能になります。こうしたところへの影響も実感しているところです。

疾患啓発をご支援するなかで、そもそも製薬業界・医療機器メーカー様が十数年かけて開発した非常に良いプロダクトであっても、患者さんに知られていない・届いていないことが多々あると感じています。そのギャップを埋めるべく、インターネット上で疾患を認知させて実際にWebサイトに来た患者さんに行動変容を促し、病院検索を通じて適切な病院へつないでいくことに取り組んでいます。なかでも「専門医にどうつなげるか」というお悩みを抱えているメーカーの皆様が非常に増えています。いかに患者さんをインターネット上から医療機関へシームレスにつなげられるかが、我々がインターネット上でのペイシェントジャーニーに添った疾患啓発を設計する肝になります。

インターネット上のペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)の設計

我々が2006年から健康医療情報の業界でインターネットサービスを展開していて、20年近くほとんど変わっていないことがあります。それは、健康医療情報を探す一般の方はインターネット検索からスタートしていることです。上図は少し古いデータ(2015年)ですが、インターネットのネット検索から健康医療情報を得ている方が全体の約3/4を占めることがわかります。

日本における検索エンジンのシェアの推移を見ると、上からGoogle、Yahoo!、Bing(Microsoft)となっており、この3つが長らく主流です。Yahoo!は2010年代に約4割を占めていましたが、その後どんどん落ちていき現在は14%程度です。ただ、Yahoo!はGoogleの検索エンジンを採用しているので、実際のところ一般の方が何かしら検索で探す場合、約9割がGoogleの情報網の中で動かされているというのが正しい認識だと考えます。

先ほどの生成AIに関連して、ここ1年の少しユニークな動きを紹介します。特にChat GPTが登場して以降、最初にMicrosoftが生成AIを活用した検索エンジンの分野に参入してきました。そこから、使いやすいと評価されるBingのシェアが徐々に伸びてきていることは非常に注目に値すると思います。そのほか、デスクトップPCの分野でMicrosoftのシェアはとても高く、MicrosoftがGoogleを猛追している状況です。我々はデジタルマーケティングの中でこの状況を注視しています。

続いて、患者さんが病院情報をどのように収集しているかという話題に移ります。2014年と19年に行われた調査で「病院を選ぶ際に参考にしている情報」という問いに対する回答を比較したグラフ(上図)を見てみると、14年時点では「家族や知人の評判」や「かかりつけ医の紹介」といった、オーソドックスで昔から存在する情報源が回答の多くを占めていました。ただ、5年経過した19年では「病院のホームページを見る」、あるいは「病院検索サイトを使う」ケースが大きく伸びていることが分かりました。

我々は日々長い間、数百もの医療機関のWebサイトを運営しているため、多くの人がWebサイトを訪れていること、それ故にサイトの重要性が増していることを実感しています。皆様の中で病院やクリニックのWebサイトを見ない方はいないでしょうが、ますます活用の幅を広げているのが現状です。一般の患者さんの立場で考えたとき、広告可能な診療科目自体約100個もあり、内科1つとっても「循環器内科」「呼吸器内科」「血液内科」「消化器内科」が存在していて、それぞれを区別することは非常に難しいです。また、最初に受診する診療科を間違ったことでなかなか診断にたどり着かないケースも多々あります。学術団体である学会も約90個あって、どのような専門医がいるかも理解しにくいことでしょう。

いかに最初から適切な診療科にガイドできるか、そこにいる専門医にきちんとつなげられるかで、患者さんの予後は著しく変わります。原理原則的な部分ではありますが非常に重要なことですので、正しく患者さんをガイドするところからサービス設計していくことを心がけています。

インターネット上のペイシェントジャーニーを見ていくと、(潜在も含めた)患者さんはまず健康医療情報について検索エンジンで検索し、様々な疾患があることをWebサイト(疾患啓発サイト)から得ます。そして、その疾患情報からどこの病院に行けばいいのか調べ、最終的に自分に適した病院を受診します。最後の受診にたどり着くまでに患者さんの数は大幅に減ってしまうので、行動する各段階でいかに診断・治療を必要とする患者さんを離脱させず、適切な病院へ受診してもらうかが疾患啓発をする上で最も重要な設計ポイントです。ひとつひとつの離脱(漏れ)をどう防ぐか、例えば情報を探している患者さんがあるサイトにたどり着いたとき行動変容につながる設計ができているか、ということになります。

またWebサイト・アプリといったデジタルツールは作っただけでは誰にも見てもらえないので、どうすれば集客できるかも非常に重要なテーマです。この点を意識しないまま走り出してしまうケースも意外とあるので、行動変容するように設計した上で集客もセットにします。

デジタルマーケティングを活用した疾患啓発(DTC)の事例

実際の事例をいくつかご紹介します。

医療機器メーカー様のメディコン様に対して、鼠径部ヘルニアの疾患啓発をお手伝いしています(そけいヘルニアノート)。この疾患は40代以上の男性に多い疾患で、初期症状は痛みが少なく、また「恥ずかしい」「怖い」といった理由で放置されなかなか受診に至らなかったり、専門の診療科ではない内科を受診されるケースが多くみられます。どうすれば自己判断することなく、専門の診療科(外科や消化器外科)を受診してもらえるかが現場の大きな課題でした。「放置をしていたら良くないことが起きる」ことをコンテンツを通してしっかり情報提供しながら、病院をガイドしています。

旭化成ファーマ様の場合、骨粗鬆症の疾患啓発をサポートしています。骨粗鬆症も発症してからではなくその前の段階でどう防ぐかについて、メーカーの皆様は課題意識を長らく持っていました。できるだけ早く骨粗鬆症の検査(DXA検査)を受けてもらうにはどうしたらいいか考えて生まれたのが、検診プロジェクトの骨検です。骨粗鬆症の疾患情報を提供しながら、最終的にDXA検査が受けられる医療機関リストへつなげるべく取り組んでいます。

そのほかにも例えばEAファーマ様に慢性便秘症の相談ができる病院検索サービスを提供したり、キッセイ薬品工業様には希少疾患であるANCA(アンカ)関連血管炎の相談ができる病院検索に誘導するサービスを提供したりしています。特に今は希少疾患に関するお悩みが非常に多く、いかにまだ疾患に気づいていない潜在患者さんに適切な専門医を受診してもらうかが重要なテーマになっています。

協和キリン様の場合、希少疾患であるFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の認知が、患者さんのみならずドクターの中でもなかなか進んでいないため、実際に治療に至っている患者さんは全体の1割前後と言われています。そうした状況で、診断されていない残りの潜在患者さんをいかに受診につなげるかという点を一緒にお手伝いしています。

例えば、Googleで「くる病」や「骨軟化症」と検索した時に検索結果を上から見ていくと、疾患啓発サイトの「くるこつ広場」にたどり着きます。このサイトで疾患情報を提供し、「もしかしたらこの疾患は自分たちに関係するかもしれない」と思った方は、位置情報から現在地近くの病院を簡単にスマホで探せ、最終的に専門医へ相談できるユーザーインターフェースになっています。2019年ごろから支援していてお互い試行錯誤した結果、「ペイシェントアドボカシー/医薬品にとどまらない価値の提供」として、協和キリン様側のアニュアルレポートでくるこつ広場を紹介していただきました。くるこつ広場には電話相談を設置しており、電話相談をきっかけに実際に専門医を受診して確定診断に至った患者さんがいて、その方から「希少疾患に対する医療アクセスの向上に寄与している」とコメントしていただけるようにもなりました。とはいえ、希少疾患の患者さんを探すことは本当に難しいテーマだと日々感じながら奮闘しています。

最後の事例として、製薬企業・医療機器メーカー様から少し離れた内容をご紹介します。我々は数あるデータの中でもオープンデータに注目していて、特にコロナ禍で何か役に立てるサービス開発ができないか頭を働かせていました。そんな折、2022年2月下旬に東京都医師会から発熱外来の医療機関リスト一覧を公表するというニュースが報じられました。このニュースを聞いて「このデータと我々の医療機関の検索プラットフォームを掛け合わせたら、非常に便利なサービスができるのでは」と思ったことをきっかけに、2022年7月に「東京都発熱外来病院検索サービス」にリリースしました。

サービスを簡単にご説明すると、発熱した患者さんはまず「〇〇区 発熱外来」のように、自宅付近の市区町村名をキーワードに検索するケースが非常に多いです。そこで、市区町村名で検索したらすぐに医療機関の一覧が表示されるようにしました。つまり、発熱してすぐに自分が受診できる病院がどこなのか答えが得られるサービスになっています。さらに地図から探せたり、かかりつけ医でなくてもすぐに受診できる医療機関の情報にアクセスできたりもします。

サービス設計にこだわった結果、リリースから1年間で390万PV、延べ68万人のユーザー、それから電話19万コール※3につながりました。電話について詳しく説明すると、発熱した患者さんは医療機関へ自分が受診できるか電話で確認します。「東京都発熱外来病院検索サービス」では、病院情報として掲載している電話番号をスマホでタップするだけで通話できるので、そうしたニーズにも合致して貢献できました。さらに本サービスについてアンケートを取ったところ※4、約6割の方から「実際に医療機関を探すことができた」と回答いただきました。

※3 弊社アクセス解析より

※4 2022/11/30 12/31 までの期間に本サイトに訪れた利用者の中で許諾を取得した82 名の人へのアンケート結果

実際にサービスをリリースした直後は第七波の時期で、その後の第八波の頃にはうまく寄与して非常に多くのアクセスをいただきました。現在も皆様ご存知の通り、じわじわとコロナの患者さんが増えていますが、我々のサービスのアクセスも同様の経過をたどっており、近々流行する兆しをいち早く察知できていました。

こちらのプロジェクトは東京都デジタル推進局とうまく連携しながら進めていたので、オープンデータの利活用事例として掲載していただきました。また、東京都をはじめ自治体側が民間企業や世の中の方々にうまくオープンデータを活用してほしいと強く思っている一方で、なかなか活用が進まないことが課題になっています。2023年9月には東京都の第6回オープンデータ・ラウンドテーブルにプレゼンターとして呼んでいただき、活用事例や事例を踏まえたオープンデータに関する要望を出してきました。

現在は別のオープンデータの活用に取り掛かっていますが、多くの課題も見えてきていています。課題を1つ取り上げると、データが縦割りになっており、都道府県や市区町村によってデータの形式が異なることです。デジタル庁は全国一律そろったデータを作るべく情報発信していますが、現場レベルでは追いつけていないのが現状です。我々も業務を通してあの手この手でオープンデータをきれいに揃えて医療機関のデータを作ってきた経緯があるので、メディウィルが有する保険医療機関のデータベースを一括ダウンロードできるサービス(いしゃまち病院データベース)をリリースしました。

まとめ~デジタルマーケティングを活用した疾患啓発(DTC)の提供を通じて大事だと思うこと~

ここまで、我々が取り組んでいるインターネット上のページェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)についてお話してきました。先ほどご紹介した骨粗鬆症も、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症も、鼠径部ヘルニアも、発熱外来においても、それぞれペイシェントジャーニーが全て異なります。だからこそ、しっかりと分かる範囲で仮説を立て、ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発を設計することが非常に重要になっていきます。

また、検索エンジンについても現在様々な生成AIが登場してきていますが、まだ圧倒的にGoogleの支配が続いている状態ですので、Googleをしっかり攻略することが大切です。SEOを意識して検索エンジンの最適化に取り組まなければ集客につながらず、せっかくWebサービスや医療従者向け・患者さん向けのWebサイトなどを提供してもアクセスが集まらず見てもらえません。アクセス解析の原理原則を意識して進めることはとても地道な作業になるので、うまく捉えて進めることが大事です。

最後に、ITの分野ではテクノロジーの進化がものすごく速いです。ITは個人的にも大好きで常に追うようにしているのですが、そのスピード感に間に合わないほどです。ただ、一方で医療現場や患者さんの生活で起きていることは、医療業界でビジネスをしている約20年でみてもそこまで大きく変化していないと実感しています。根本的な課題にしっかりと照準を合わせて、しっかりと現実的にテクノロジーを提供していくことが、地道に一歩一歩進むきっかけになると思っています。

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投稿日:2024年01月26日

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