COLUMN メディウィル城間プレゼンまとめ~東京都のオープンデータを活用した東京都発熱外来病院検索サービスの事例紹介と提言@第6回東京都オープンデータ・ラウンドテーブル

2023年9月12日に都庁で開かれた「第6回東京都オープンデータ・ラウンドテーブル」に、弊社代表取締役・城間波留人が出席しました。当日は東京都のオープンデータを活用して展開した事業「東京都発熱外来病院検索サービス」の紹介、オープンデータとそのデータ形式の重要性、東京都をはじめとした行政への要望をプレゼンしました。本記事では当日の発表内容等をまとめます。

東京都オープンデータ・ラウンドテーブルとは

東京都は現在オープンデータカタログサイト上で約57,000件以上のオープンデータを掲載しており、区市町村と合わせた「オール東京」でオープンデータ化の好循環をさらに促進するための取り組みをいくつか展開しています。ラウンドテーブルはそのひとつで、民間事業者からオープンデータに関するご提案をいただき、行政職員との意見交換を行う場として開催されています。

今回で6回目の開催となります。

当日は東京都デジタルサービス局職員3名、プレゼン企業3社から4名が出席、(リモートで)デジタル庁から1名、東京都各局及び東京都内の区市町村の担当者(数十名)が参加しました。

※詳細は下記の東京都オープンデータカタログサイトをご覧ください。

東京都オープンデータ・ラウンドテーブル

はじめに

今日は我々がこの1年で東京都のオープンデータを活用し展開した「東京都発熱外来病院検索サービス」(以下、本サービス)の事例紹介と、その経験を踏まえ感じたことを提言しながら、本題となる「今後どのようなオープンデータがあると都民の方に良いのか」という要望を出せればと思います。

はじめに、弊社メディウィルを簡単に紹介します。2006年の創業当初から、医療機関、特にクリニック向けのWebサイトを制作するなどデジタルマーケティングの支援を行っており、患者さんと医療機関をつなぐ仕事に取り組んできました。2014年には昔大体のご家庭に1冊あった「家庭の医学」のオンライン版として、Webメディア「いしゃまち 家庭の医療情報」をリリースし、ピーク時は月間 2000万PV・1000万UUまで展開しました。それから患者さんが受診する病院をガイドすべく、2018年に「いしゃまち 病院検索」をリリースしました。このサービスは疾患に応じてカスタマイズでき、なおかつGoogleのように使いやすいUI(User Interface、製品サービスとの接点)・UX(User eXperience、全体のユーザー体験)にこだわってきました。現在の我々のビジネスは、製薬企業や医療機器メーカーが行う疾患啓発のデジタルマーケティング支援です。なかなか知られていない疾患の理解を幅広く進め、(患者さんに)適切な医療機関の受診そして適切な治療を受けてもらう活動の支援に注力しています。

東京都のオープンデータを活用した東京都発熱外来病院検索サービスの事例紹介

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が流行する中で様々なサービスが開発される事例を見ながら、 インターネット上の患者さんを適切な医療にシームレスにつなぐお手伝いをしてきた我々の会社として、役に立てないかずっと注視していました。その中で2022年2月下旬、「東京都の医師会が発熱外来を開設している都内の医療機関リストを公開した」というニュースが出ました。東京都保健医療局のWebサイトでExcelデータで公開されていたリストを確認したほか、(同サイト上に)「外来対応医療機関マップ」のパソコン版・モバイル版があったため、我々メンバーで実際にマップを使用してみました。(リストの公開は)非常に良い取り組みだと思った一方、そもそも「東京都保健医療局のWebサイトに発熱外来のデータがあること」を知る機会がないとも素朴に感じました。我々からすると、(周知してもらうことは)最初の重要なポイントで、せっかくWebサイトを制作しても集客できないと意味がありません。また、マップも網羅的に制作されていて機能もとても良いのですが、逆に言えばシンプルさに少し欠けていて、「もっと使いやすいサービスができるのでは」という課題意識を持ちました。UI、UXを改善しサービスレベルを上げることで、都民の皆様のユーザー体験ひいてはQOLを上げられると考え、始めたプロジェクトです。

(検索サービスの)ユーザーである発熱した患者さんがどのように行動するか、社内のメンバーとディスカッションしました。その中で、「病院が自宅もしくは勤務先の近くか」、「自分が受診できる時間か」の2点が非常に重要な鍵であり、UIとして一覧画面で診療時間がわかること、診療時間で絞れて一覧表示されることが良いという仮説を立てました。ただ、ユーザー調査で「発熱した時どう行動しますか」と尋ねて判明したのは、発熱した瞬間はそんなに余裕がなく、数多くあるボタンを使って探したり絞り込んだりせず「すぐに電話したい」という声が非常に多かったことです。このことには(当初のディスカッション時には)全然気づけず、できるだけ使われない機能は絞り、発熱した患者さんがすぐに電話できるUIが大事だと調査結果から導きました。


改めて発熱した時の患者さんのペイシェントフロー(患者さんがどのような流れで受診に至るか)を示すと、発熱した当初は様子を見て自宅療養し、それでも症状が改善しない場合はかかりつけ医がいたらすぐに電話し受診する流れがあります。ただ、特に若年層、20~30代のおよそ6割の方はかかりつけ医がいないという調査結果1)があり、かかりつけ医がいない方は(行き場がなく)さまよっていることが分かってきました。そうした方々はGoogle(などの検索エンジン)で医療機関を検索し、各区市町村のWebサイト上にある発熱外来のページにたどり着けば相談窓口に電話します。ただ、電話した先では結局患者さんの家から近い病院のWebサイトを案内されるにとどまり、すぐに自分が行きたい病院にたどりつけないことが分かってきました。電話までの時間と体験をいかに短くするかという課題に着目し、発熱した患者さんが検索してすぐ電話できる動線を可能な限りシンプルに設計できれば、都民の方々のQOLを上げられると思いました。

2022年7月27日にリリースした本サービスは、開発期間が3カ月弱程度でした。本来であればもっと時間を要しますが、オープンデータで公開されたリストのデータが非常に使いやすく、我々が裏側で開発していた病院検索サービスのシステムとうまく重なったため、リリースまで比較的早くもっていくことができました。実際のサービスを説明すると、発熱した患者さんは、よく「市区長町村 発熱外来」で検索します(例:足立区の住民であれば「足立区 発熱外来」)。すると、発熱外来を実施している医療機関の一覧のリストが載った(本サービスの)ページが検索上位にあるため、(欲しい情報に)すぐにたどりつけます。また、本サービスは地図上からも医療機関を探せる上、すぐ電話できる動線になっています。結果的に運営して1年余りで合計延べ390万PV・延べ68万人のユーザー、延べ19万回コール(電話ボタン)のクリックにつながりました。ある期間にオンラインで発熱患者さんにアンケートを取ったところ、6割以上の方から「このサービスを通じて医療機関を見つけられた」という回答を得られました。

2023年9月5日までのアクセス解析を見ると、昨年7月のリリース時にちょうど第7波がきて少しアクセスが増え、その後第8波がきた時はちょうど(本サービスが)検索にもどんどん馴染んできたので、非常に大きなアクセスとなりました。最近もコロナに感染した方々が増えてきている実感があると思いますが、同じようにサイトへのアクセスも増えています。アクセスが増加すると実際の患者さんも増えてくることはほぼ一致していて、我々は早い段階で「第9波が来そうだね」という話をよくしており、波の予測に使えるところもポイントかと思います。あとはリリース後、東京都オープンデータカタログサイトの活用事例のページにすぐ掲載してもらえたことも、PRや検索エンジンへの馴染みやすさ、集客という観点からありがたい後押しになりました。自治体の皆様と我々のような民間企業が、きちんと連携していくことはとても重要だと感じた次第です。

オープンデータを活用した企業の視点から学んだことと提言

この1年間、試行錯誤しながら運用してきた中で、今回の事例を踏まえて見えてきた課題や改善点をまとめます。ひとつは、今日のテーマでもあるオープンデータが、機械判別可能な形式であることの重要性です。データフォーマットが全て整っているかどうかで、(結果は)かなり違ったのではないでしょうか。今回のケースでは(網羅性の高い)しっかりした発熱外来の医療機関のリストが公開され、なおかつオープンデータとして使える形であったため、リリースしやすくなりました。また、先ほどお伝えした通り、活用事例として紹介してもらえたことによる集客効果はかなり大きいものでした。今回のテーマでもある自治体との密な連携はサービス開発前から重要だと認識していましたが、うまくいくための要因のひとつだと改めて実感しています。また、色々な観点がありますが、自治体がサービスを作ること自体は歓迎すべきことです。その上で、もう少しユーザー目線からさらに使いやすいサービスにできないか、UI・UXの改善を検討することは大切です。そこは我々民間企業が得意なところで一番注力しなければいけない部分なので、(自治体が)うまく民間企業の力を借りてもらいたいです。

オープンデータに関して、区市町村の皆様が「日々忙しい中なぜ仕事量を増やしてまで準備する必要があるのか」と思うのはよく理解できます。ただ、今回の本サービスのように、オープンデータが多くの都民の方々のQOLに貢献できることがあります。オープンデータは非常に価値があり、(オープンデータによって)今まで民間企業が気づかなかった分野のイノベーションにつながることが可能です。本当に小さな取り組みですが、今回の事例を少しでも知っていただくだけでも大変ありがたいですし、日々の業務の中にオープンデータ化する業務をうまく組み込んでもらうことも非常に重要かと思います。

一方で、せっかくデータがExcelで公開されていても、(東京都オープンデータカタログサイトの)リストになければオープンデータの活用事例として紹介されないという障壁があります。デジタル推進局の皆様には、公開されているデータに関してはできる限りリストに載せておいてもらえると、活用の幅が広がってくると思います。それから東京都や区市町村、厚労省含めた行政側から「このサービスはオープンデータによってできました」とWebサイトで紹介したりSNS等で発信したりしてもらえると、サービスのPR効果はやはり大きいです。制作したものがより多く使われるきっかけになるので、広報活動に少しでも取り組んでもらえると大変ありがたいです。

今回のプロジェクトは皆様のご協力のおかげで成功したと感じており、このようなケースを増やしていくのは非常に大事だと思います。 オープンデータがどう活用されるのか見えにくく、また活用もなかなかしてもらえないという話を前から耳にしていました。「延べ約70万人に利用してもらい、少しでも発熱外来の受診 につながった」という今回の事例を、ぜひ知っていただきたいです。

今後のオープンデータ化に関する要望

最後に今後の要望についてですが、我々は医療機関の検索サービスのプラットフォームを持っており、医療機関に関する情報をうまく活用して取り組むことが得意分野です。自治体の皆様には医療機関の固有情報を所有していて、例えば東京都福祉局のWebサイトには発達障害の医療機関一覧がExcelデータで公開されています。ただ、オープンデータ化されていないため(オープンデータのリストにない)、我々としては(サイトの集客効果が見込めず)活用しづらいので、ぜひオープンデータ化を進めていただきたいです。

ほかにも、各区市町村のWebサイトに任意予防接種実施医療機関のデータがあります。特にコロナが流行して以降、ワクチンが身近になったと思います。ワクチンに関しては、VPD(Vaccine Preventable Diseases)という「ワクチンで防げる病気はワクチンで予防しましょう」という 考え方が存在し、96%の方が賛同しているというデータもあります2)。そして、「どういうことがあるとワクチン任意摂取ワクチンを受けますか」という問いには、 「自治体から接種費用の助成があれば」という回答が多くなっています2)。無償で全国民へ「とにかく予防接種を受けてください」と呼びかけ一気に広がったコロナワクチンのように、自治体の助成は非常に大きなポイントです。

ただ、助成に関する情報を住民の方々が本当に把握できているでしょうか。例えば大人の予防接種もさまざまありますが、助成の対象かどうかはバラバラで、区市町村によっても差があります。例えば、帯状疱疹のワクチン助成で見ると、港区は助成していて接種を実施している医療機関のリストを公開しています。ただこのリストはPDFであるため、利用するとなるとサービスの開発担当者が手入力で行う必要があります。実際に今我々は開発を進めていて、東京都の全区市町村のWebサイトを訪問してデータを確認し、PDFであれば実際に担当者が手入力しています。このデータがExcelでもあれば使いやすいですし、東京都のオープンデータのリストとしてなおかつCSV形式等機械判別可能なデータで掲載されていれば、素早くサービスリリースが可能になります。また、このリストが定期的に毎月更新されていると、我々の負担が減り、いち早く都民の皆様に貴重な情報を届けられます。

ここまでの話をお聞きになったことで、恐らくイメージが湧いてきたのではないでしょうか。最後に北海道では、「北海道のホームページは原則全てオープンデータです」と掲げられていることを紹介します。ご清聴ありがとうございました。

1)令和元年の内閣府の調査

2)任意接種ワクチンに対する保護者の意識調査

投稿日:2023年09月26日

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