株式会社メディウィルでは、SMBC日興証券株式会社 株式調査部シニアアナリストの徳本進之介氏を招いたオンラインセミナー「2026年 ヘルステック・デジタルヘルス業界最新動向~『その先へ』を形にする変曲点にある~」を2026年1月22日に開催しました。
本記事では当日の講演から、製薬DX関連の話題を中心にまとめるなどしてご紹介します。
目次
ヘルステック業界の推移

(弊社が)注目しているヘルステック企業100社のうち、約半分は2014年以降の創業です。2015年頃からAIが一般的な産業界の中で実用化が進みました。それに併せて10年でヘルステック産業の裾野も大きく拡大していると言えます。2000年以降に創業したエムスリーやJMDCらを第1世代、メドレーをはじめ2010年前後に創業した企業を第2世代、そして2020年以降の創業企業を第3世代にそれぞれ分けたとき、企業や業界の課題や展望は世代によって異なると考えています。
デジタル技術を用いて医療の効率化を目指した第1世代のエムスリーやJMDCは上場企業として様々な事業ポートフォリオを有しており、M&Aを通じて更に事業を多角化する段階にあります。デジタル技術を用いて効率的な診療支援を目指す企業が増加した第2世代では、SaMD(Software as a Medical Device:プログラム医療機器)を開発するスタートアップが目立ちます。診療支援は新たな取り組みであることも多く、規制や制度との整理、導入医療機関数や患者数などの浸透率を上げていくことに課題を感じている会社が多くあります。
第3世代ではデータの収集や利活用を強く意識した企業が多い印象です。資金調達がこれから本格化する企業が多い印象です。データの基準づくりや制度構築をいかにしていくのかも重要な論点となっています。

今までの講演では、ヘルステック業界のステークホルダーを4つのP(※)に分けて事業環境を概観してきました。今年は、従来のPに加えて、「ポリシー(Policy、政策)」と「プレース(Place、海外)」を取り巻く環境についても注目していきたいと思います。
※4つのP…ファーマ(Pharmaceutical、製薬)、フィジシャン(Physician、医療従事者・医療機関)、ぺイヤー(Payer、健康保険組合・企業)、ペイシェント(Patient、患者))
今日の業界図を振り返る

(上の画像は)注目企業100社をマッピングしたもので、青がエムスリー、緑がJMDC、赤がDeNA、MDVとの関係を示しており、買収や事業提携、出資関係を色分けしています。グレーは、医療機器、医薬品卸、商社、通信IT、生損保等のヘルステック周辺の企業群との関係を色付けしています。
事業のスケールアップに向けて資本力を活用した合従連衡が進んだヘルステック業界ですが、上記企業の半数以上が色付けされた現在、合従連衡後の世界観、事業モデルが問われ始めている状況となっています。
例えば、医療情報やデータを扱う領域は、医療機関における患者との接点(フロントエンド)との事業シナジーが構築しやすいことから、この領域では、エムスリーがm3.com、デジカル、デジスマ診療を通じてドミナント戦略をとる一方で、JMDCが買収を通じ多角化を進めています。大手のドミナント戦略に対し、疾患啓発、早期診断、医療アクセス支援の領域では、専門領域のニッチ特化型での事業展開が目立ちます。
医療機関支援では、問診、遠隔医療、医療アクセス支援など患者との接点(フロントエンド)から医療機関のオペレーション(バックエンド)に事業を広げる動きと、医療機関の経営支援や業務効率化といったオペレーション(バックエンド)から患者との接点(フロントエンド)を強化する動きが同時に起きており、どのような医療を目指すのかという世界観の違いを捉える事も業界動向を把握をする上では重要だと思います。
製薬企業向けマーケティング支援における変化
製薬企業の業務をデジタル化で支援する製薬DX(Digital transformation)では、マーケティング支援、データ利活用、治験の効率化、創薬支援などがありますが、今回は参加者の関心が高いマーケティング支援、データ利活用を中心に掘り下げたいと思います。
製薬企業のマーケティング支援やデータ利活用に関する売上高をみると、製薬企業のMR適正化から減少傾向が続いていましたが、昨年の後半より、その傾向が一巡し、戻り始めています。ただ実際に伸びているサービスは、データやコンサルティングであり、既存のサービスに付加価値をどこまで載せられるかが重要となっていることを示唆しています。

製薬企業のマーケティング支援では、様々なサービスがあり、図では円周上に整理しました。製薬企業のマーケティング支援では、処方シェアや薬剤価値の最大化に向けて、それぞれのサービスが繋がり、製薬企業側もOne Budgetとなりつつあります。サービスを「繋げる」こと、掛け合わせて「創る」ことが重要になっていると考えます。
図では、エムスリー(外円)、JMDC(内円)の主要サービス範囲をプロットしています。主にJMDCは買収を通じ、サービス範囲を拡大しています。濃い赤色の部分は、弊社が今年注目している領域です。臨床支援、処方データ、希少疾患支援の3領域は、エムスリー、JMDCが更なる取り組みを模索していると同時に、この数年で資金調達したスタートアップが存在する領域です。新規サービスや事業連携、買収など、各社の動向に注視したいと思います。

特に希少疾患などスペシャリティ・ケアでは、様々なサービスが出ています。希少疾患の場合は、受診や診断までの時間や初診での誤診リスクなど、様々なペインがあります。医薬品の金額構成におけるスペシャリティ医薬品の市場割合が上昇する中で、適切な医療アクセスを、デジタル技術を活用してシームレスに繋いでいくことが重要です。
現段階では、受診、診断、情報提供、臨床開発・治験と個別領域でサービス展開をする会社が多いですが、スペシャリティ・ケアのワンストップ化という観点からも更なる合従連衡が起きる可能性もありえます。
医療データ利活用における変化

医療データの利活用が、製薬企業のマーケティング、メディカルや研究開発の分野で進んでいます。医療データの二次利活用市場は、2020年から2025年にかけては毎年 約24%の成長となっていました。医療データ利活用は、海に潜るダイビングのようなものだと考えています。つまり、深く潜るほどインサイトがあるが、求められるテクノロジーとノウハウが大きくなります。2025年時点では、健保や病院からのレセプトを活用したサービスの浸透率がかなり進みました。そして2030年に向けては、第二層目の電子カルテデータや第三層目の個別・専門データの利活用がどこまで進んでいくのかが注目点です。
2026年の注目点①医療データ利活用の深化

今年の一つ目の注目点は、「医療データの深化」です。キーワードは、「Data dive, drive and develop」です。Dive(深く潜る)という観点では、既存のレセプトやDPCデータに留まらず、電子カルテデータや個別・専門データの収集・加工・活用が論点です。特に一層目にあたるレセプト/DPCデータは、大規模・定型データになりますが、市場が成熟化する中で、分配ゲーム、ゼロサムゲームを通じ、寡占化へ向かいつつあり、二層目・三層目での事業機会の模索が重要です。
Drive(実装)の観点では、二層目(深海)における電子カルテデータの利活用に注目しています。2025年で医療データの二次利活用としては約225億円の売上高があったと弊社は推定していますが、電子カルテ由来のデータ利活用は、二桁億円にまだ満たない状況です。電子カルテは病院や医師ごとの個別性やベンダーの多さから利活用には課題がありました。
政府の電子カルテ普及策も今年注目されるテーマでもあり、医療機関の電子カルテ導入の裾野が中長期的に拡大する中では、それらのデータを適切な形で利活用する需要も高まると考えています。一層目のレセプトが医療の「結果」を把握するものとすれば、二層目の電子カルテデータは、医療の「原因」に迫るものだと言えます。
Develop(標準化)の観点では、三層目(超深海)における個別・専門データに関連するサービスに注目したいと思います。この領域では、遺伝子、睡眠、血圧、血糖値、内視鏡画像データなど、データ種類によって様々なポテンシャルがあります。これらの領域はエッジ(端末や機器)からデータを収集するため、端末や機器サイドからの国際標準化を進めていくことも重要です。
2026年の注目点②患者アクセスへの経営資源投入

二つ目の注目点は、「患者アクセスへの経営資源投入」です。キーワードは、「All roads lead to patients」です。全ての道は患者に繋がっていく。上場ヘルステック企業であるエムスリー、JMDC、メドレーとも患者アクセスの強化に経営資源を投下し続けています。実際に企業向けサービスでカバーしている従業員数や、サービスのユーザー患者数は大きく増加しています。更なる拡大に向けた合従連衡、買収の可能性、アクセスを活かした新しい事業開発が今年はより活発になるのではないかと感じています。特に、医療・介護での患者の支援サービス、企業や健保の業務効率化サービスにおける更なる合従連衡には注目したいと思います。
2026年の注目点③海外への事業展開

三つ目の注目点は、海外への事業展開です。キーワードは、「Think globally,act locally」です。この数年で、アメリカ、アジア向け海外展開、新規事業の模索がヘルステック企業でも広がっている印象を持ちます。更に裾野が広がるのか、そして模索している会社は事業として離陸できるかに注目しています。特にデジタル技術を活用した医療機器は、SaMD(Software as a medical device)というだけで高いマルチプル(期待値)がつく状況ではなく、性能、アウトカム、コストで既存の医療機器市場をどれくらいディスラプト(技術代替)、エンハンス(相乗効果)できるかが問われています。企業価値、バリュエーションを考えた上では、国内市場だけでは更なる評価が厳しい場合も散見され、海外市場への本格的な戦略検討も論点となっていくと予想しています。
まとめ

日本のヘルスケア関連企業の株価は長期的には大きく上昇しましたが、この数年は金融環境の変化も相まってボックス圏内に位置しています。ボックス圏を超えるためには、新たな価値提供が求められます。それぞれの業界の中で「その先」として議論されていた未来図を、現実社会で実装できるかが問われます。「その先へ」を形にする変曲点にあると考えています。

生成AI等の技術進化、医療DXやAIに関する米国、中国、日本の政策動向も、業界に変化を促す触媒となりつつあります。ヘルステック業界で「その先へ」を形にするための今年の注目点としては、先述の通り、以下の3つをハイライトしたいと思います。
- 医療データの深化(Data dive, drive and develop)
- 患者アクセスへの経営資源投入(All roads lead to patients)
- 海外への事業展開(Think globally,act locally)
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