COLUMN ベルシステム24塚前氏プレゼンまとめ~ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発とPSP ワンストップソリューションの可能性~【後編】

株式会社ベルシステム24と株式会社メディウィルはオンラインセミナー「ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発とPSP ワンストップソリューションの可能性」を2023年5月26日に共催しました。講師は、株式会社ベルシステム24 第1事業本部 営業企画部 マネージャーである塚前昌利氏と、株式会社メディウィル 代表取締役である城間波留人が務めました。本記事では当日の講演から、ベルシステム24 塚前氏の発表パート及びQ&A・アフタートークをまとめます。

第一部 「ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発におけるデジタルマーケティング活用事例紹介」はこちらから

第二部 ベルシステム24が考えるPatient Centricity~PSPプログラムを中心に~
(講師:株式会社ベルシステム24 第1事業本部 営業企画部 マネージャー 塚前昌利氏)

塚前:ベルシステム24 第1事業本部営業企画部の塚前と申します。ベルシステム24の考えるPatient Centricity(ぺイシェント・セントリシティ)ということで、PSP(ペイシェントサポートプログラム)プログラムを中心にお話をさせていただきます。

私は製薬企業にずっと勤めておりまして、ベルシステム24には2013年に入社しました。業界経験を活かし、アウトソーシングの立場で製薬企業の市販後サービス、様々なニーズを踏まえた最適なソリューションのご提案、コンサルティングの業務などに関わっています。また診療報酬や医療制度、医薬品適正使用といったテーマで色々な業界誌に執筆したり、今回のようなセミナーの講師を務めたりする機会をいただいています。

本日は以下の3つのストーリーをテーマに、お話したいと思います。

  • ベルシステム24について
  • 当社が提供するPSPサービス
  • 当社が考えるPSPサービス

ベルシステム24について

本題に入る前に、少しだけ当社のご紹介をいたします。ベルシステム24は昨年に創業40周年を迎えました。拠点は国内に38箇所、海外でもベトナムやタイ、台湾などにあります。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)さんや凸版印刷さんとの合弁会社もあり、グループ全体で4万人を超える従業員が従事しています。

当社のビジネスモデルは、クライアント企業様とエンドユーザー様のコミュニケーションを設計・提案し、実行することを掲げています。様々なコミュニケーションツールを使ってエンドユーザー様の声を収集・分析し、それをクライアント企業様にフィードバックすることで、PDCを回していきます。

PSPはエンドユーザー様=患者様であるため、企業様にとっては接点が薄くなっている部分です。当社がお手伝いしてしっかりエンドユーザー様の声をクライアント様に届ける点が、PSPの特徴と考えています。

当初は電話やFAXなどのツールが中心でしたが、インターネットの発達に伴い応対方法や相談内容も多様化しております。チャット、メール、Webサイト、スマートフォンなどの様々なコミュニケーションツールを使って、年間5億コールを超えるお客様の色々な声を集めてお届けしています。

また、様々なCRM(Customer Relationship Management)テクノロジーを使って、多種多様な部門のお客様に対して「エンドユーザー様の期待を超える顧客体験」と「クライアント様の期待を超える価値」を提供することを目指し、業務を行っています。今回の医薬を含め、さまざまな業種・業態(製造メーカー、通信・携帯、小売・流通、ライフライン、Webメディア、保険・金融、採用・教育、メディカル、広告・販促、交通・移動など)の1200社を超える豊富な領域での経験・取引があります。

医薬事業に関しては、CRO(Contract Research Organization)事業とCRM事業を行っています。CRO事業に関しては1986年の症例登録業務の開始から30年以上にわたって、2000試験を超える豊富な業務経験があります。またCRM事業でも2000年に医薬品に特化した製薬企業向けDI(Drug Information)サービスを開始し、20年以上の実績があります。100社を超える製薬企業様や医療企業様との豊富な取引実績があり、様々なBPO(Business Process Outsourcing)ソリューションを提供しています。本日はPSPということで看護師が中心になりますが、当社看護師を含めて150名を超える有資格者が、医薬の事業では720席、全国4拠点でサービスを提供しています。


様々なサービスラインナップが揃っているなかから、今回は患者サポートについてご紹介いたします。

当社が提供するPSPサービス

まず私が考える、PSPが注目された背景を4点挙げます。

  1. スペシャルティー製品の増加に伴う、患者の治療継続を支援するニーズの高まり。
  2. 抗がん剤など外来での治療期間の増加に伴う、副作用マネジメントの重要性。
  3. 多職種連携が進む中で、治療サポートサービスの潜在的な需要の高まり。
  4. コロナ禍による受診控えや治療中断による、医療機関の継続受診を高めるニーズの増加。

こういったことから、薬剤の適正使用の推進、治療継続の支援、QOLの向上を目的としてPSPが注目されるようになったという背景があると捉えています。

また、グレーゾーン解消制度を活用したPSPサービスに関する照会(PSPサービスが法令違反にあたらないか)に、経済産業省は2019年3月、「公開情報に限った情報を電話等により積極的に提供する行為は、医師法第17条の『医業』に抵触しない」旨の回答をしました。この一定の見解が示されたことも、PSPサービスを後押しする一因になっていると考えています。

当社のPSPサービスの特徴は4点あります。

1点目は医療機器・医薬品の多様な領域、治験から市販後までの業務実績があること。

2点目は、疾患や医薬品・医療機器の特徴に合わせたサービス提供が可能であること。例えば24時間365日、あるいは日中だけ、夜間のみなど様々なパターンがありますので、それに合わせた設計や提供が可能です。

3点目は看護師の臨床現場での経験に基づくFAQの作成・修正のご提案を通じて、適正使用やアドヒアランス向上を推進し、製品の価値最大化に貢献しているところです。

4点目は豊富なコンタクトセンター構築スキルと、医薬・医療専門人材によるサービスを融合した設計・運用をすることです。ベルシステム24全体では2万人を超える人材が在籍しており、医薬だけでも700席近くあります。有資格者ではない一般のコミュニケーターと呼ばれるスタッフと有資格者が組み合わさったサービスを提供することや、あるいは電話以外のオンラインやSNSと組み合わせたサービスの提供も可能となっています。

業務内容は大きく分けて4点あり、こうした業務を24時間365日提供しています。

  • 医薬品適正使用情報の提供
  • 通院・服薬リマインド
  • 手技指導
  • 病状調査

ご参考までに、当社の看護師がどういった心構えでお客様と対応しているかを取り上げます。丁寧にご説明する共感と傾聴を示してお客様に寄り添ってお答えする、臨機応変に対応する、入電に応じて声のトーンや速さを変化させる、といったことに気を配ってサービスを提供しています。

サービスフローについて図を使って説明します。

まずPSPのサービスは、製薬企業様(特にMR様)から、医療従事者(特にお医者様)にサービスを提供していただくことが起点になります。そこからお医者様から患者様に対して、PSPプログラムをご紹介いただき、患者様からお申し込みいただくと当社がプログラムをご説明し情報提供する、という流れです。また、やり取りの中で有害事象などが発生するケースもありますので、そういった場合は速やかにクライアント企業様に情報をフィードバックすることも重要なポイントと考えています。

コミュニケーションツールを使った手技指導サービスをいくつかご紹介いたします。

まずZoomを活用した自己注射の手技指導のサービスフローです。予約サイトからオンライン面談ツールを用いてご希望いただいた患者様にZoomミーティングを発行し、ご予約日にZoomで初期指導を行います。

2点目はベルフェイス様が提供されているオンライン会議システム「bellface」を使った事例です。予約時間が近づくと、オペレーターが患者様に電話をいたします。パソコンやスマホで「接続ナンバーを発行」ボタンをクリックしていただき、オペレーターに画面表示された数字を伝えることで、機器に接続ができます。そこから画面を見ながら資料や動画を活用してご説明をしたり、実際に患部や医療機器を撮影していただいて適切に使えているか確認をしたりしています。また顔が見えることから、お互いに安心して手技指導につながるということで、アドヒアランス向上にもつながると考えております。

最後はMCS(メディカルケアステーション)と呼ばれる、エンブレース様がご提供されている完全非公開型の医療介護専用SNSと電話を組み合わせたサービスの事例です(詳細は上記画像を参照)。

これまでご紹介したように様々なツールを使った事例がございます。しかし、実際には約9割が電話を使ったコミュニケーションのサービスであり、やはり患者様にとっては、「すぐにつながる」という点で電話が一番好まれているのではないかと考えています。

こちら(上記画像)が実際にどういった領域で、弊社がお手伝いさせていただいているか一覧から一部抜粋したものです。赤枠で囲っているものが最近の事例で、痙性麻痺治療剤、先天性代謝異常症治療剤、重症筋無力症治療剤といったような、かなりスペシャリティな製品に関するサービスのご要望が増えている印象です。

クライアント企業様が抱えている課題として、以下のようなものが挙げられます。

  • 医師へのプログラム説明・許諾
  • MRのPSPプログラムの理解
  • PSP実施部門と営業・マーケティング部門との連携
  • 費用対効果の測定
  • ペイシェントジャーニーに沿ったニーズへの対応

冒頭で申し上げたように、プログラムはお医者様から患者様に説明していただくことになりますが、その前段階で製薬企業様(のMR様)からお医者様にプログラムの説明をしていただいて、許諾をとることが起点となっています。そのためMR様にPSPプログラムをしっかりご理解頂いた上で、お医者様にお伝えいただくことが重要と考えます。また、PSPサービスは製薬企業様の色々な部門が関わることが考えられますので、実施部門と営業マーケティング部との連携も重要と考えます。費用対効果の測定に関しては、この後ご説明させていただきます。

先ほどの手技指導や、PSP治療サービスに限らず、最近ではこのペイシェントジャーニーに沿ったニーズ対応の取り組みが、クライアント様でかなり広がっている印象を持っております。

ペイジェントジャーニーを網羅した製薬企業各社様のPSPの取り組みについて、3点ご説明いたします。

1点目はPSPサービスの多様化です。服薬管理アプリの提供や自己注射とデバイスの連携、患者様宅への治療薬配送というような、サービス自体にバリエーションが数多くある印象を持っております。

2点目は、ステークホルダーと連携した包括的なPSPプログラムの取り組みです。慢性がん疾患の治療継続率向上を目的としたMaaS(Mobility as a Service)を活用した患者サポートプログラムや、パーキンソン病の患者様に対して色々なデバイスやオンラインツールを使いながら、在宅モニタリングやオンライン診療・オンライン服薬指導などを組み合わせたプラットフォームを構築した上でサービスを提供するといった、実証事業的なPSPプログラムの取り組みが増えている印象を持っています。

3点目は、疾患啓発を含めて患者さんや生活者の方に病気に関する正しい情報を提供する、「広義のPSPの取り組み」の広がりもあると考えています。例えば医療機関検索サイトや医療情報プラットフォームとオウンドメディアとの連携が挙げられますし、他にも製薬企業様が連携して研究開発・治療継続支援に取り組む事例(HAE早期診断実現を目指すコンソーシアムの設立・運営支援、患者様と協働する創薬活動の設立など)もあります。非常にペイシェントジャーニーを広く俯瞰した形での取り組みがなされている印象を持っております。

一方で、当社の課題についても4点書いております。

まずは、薬剤の課題分析からプログラムを設計するというノウハウがまだまだ不足していることです。また、現状は訪問リソースを持たないため、患者様からの電話を待って対応するサービスになっています。今後は訪問リソースに関するニーズにも対応して行く必要があると考えています。また先程申し上げたように、ペイシェントジャーニーに沿ったニーズがクライアント企業様に広がっていることに対して、当社のサービスは手技指導など一部業務に限定しているため、ここへの対応も課題として捉えています。

KPIに関しては、まずどのぐらいお医者様にこのプログラムへ参加していただくかが重要になりますので、製薬企業様を通じてお医者様の参加数を増やすところが重要と考えています。その結果によって当社スタッフの対応・体制も考える必要があると思います。

その上で、

  • 登録していただいた患者様にどのくらいコンタクトが取れているのか。
  • 患者様から、治療や薬剤に関する要望やプログラムに対する満足度といったような定性的な部分も含めたアンケートの回収がどのぐらいできているか。

などがKPIとして考えられます。

またこのPSPプログラムに関してはプログラムに参加していただく方の数を増やしていく必要があるので、こういったプログラムに関して当社がアウトバウンド(企業側から顧客へアプローチする営業活動)でご紹介することも、やり方としては可能です。

当社が考えるPSPサービス

最後に当社が考えるPSPサービスをご紹介いたします。

様々なコミュニケーションツールを使って、製薬企業様のペイジェントジャーニーに沿った取り組みがなされています。その一方で、当社が提供するサービスは治療の一部分に限られており、ペイジェントジャーニーを網羅したサービス提供ができていない点が課題と考えております。

当社は治療の一部である服薬継続にとどまっている実態があります。一方でメディウィルさんが疾患啓発に取り組まれていることから、メディウィルさんとも現在、疾患啓発と治療の継続に関するサービス提供を一緒にできないか検討しています。上記図の*で示した様々な伊藤忠パートナー企業様と一緒に組んで、当社が疾患全体のコンタクトセンターという位置づけでサービスを提供していきたいと考えております。これが当社がPSP全体のプログラムを提供するために考えている事例のひとつです。

例えば、当社が取り組んでいる事例としてDCT(Decentralized Clinical Trial:分散型臨床試験)ソリューションが挙げられます。当社が様々な企業様と協働することで、サービスの提供が可能となっています。

製薬企業様のペイシェント・セントリシティの取り組みを支援するためにも、パートナー企業様と一緒に取り組んでいきたいと考えております。そうすることで、我々が従来行っている治療の一部分のみならず、疾患啓発から受診勧奨、あるいは治療継続といったトータルでのご支援が可能になると思っております。

最後に、ペイシェント・セントリシティに貢献するための今後の目標についてお話します。患者様を取り巻く様々なステークホルダーがいらっしゃいますが、将来的にはひとつのプラットフォームを通じて、複数のステークホルダーが患者様や生活者に対して、情報提供を行う世界が訪れる可能性があると考えています。当社もその一員として入り、患者様に寄り添ってペイシェント・セントリシティに貢献していきたいです。この当社の考える、あるいは目指すペイシェントプログラムを、ぜひ製薬企業様やパートナー様とタッグを組んで、広く訴求していきたいと考えています。

アフタートーク、質疑応答

城間:お話を聞いて伊藤忠グループのパートナー企業様との連携を含めて、色々なソリューションの形でご提供できるところが、非常にユニークな位置付けだと改めて思いました。塚前さんのお話の中で、PSPでポイントになりそうだと思ったのは、塚前さんも課題として挙げていた「MRの方がドクターに説明するところにそれなりのハードルがある」点です。ここが浸透しなければドクターから患者様までいかないですから、MRがドクターへスムーズに説明ができるよう御社側が工夫されている点があれば、補足していただけますか。

塚前:当社のPSPサービスに関して、製薬企業様からダイレクトにお声がけいただくケースは、まだまだ少ないと思っています。これは当社がなかなかサービスを紹介できていないからでもあるのですが、広告代理店様からトータルのサービスの中で当社を入れていただくケースは実際多いと考えています。そうすると、製薬企業様がPSPサービスを始めるかなり近い段階でお声がけをいただくことになります。当社もできるだけキャッチアップしようと思っているのですが、なかなか「こういう疾患であれば、こういったプログラムが必要ではないでしょうか」と製薬企業様にご提案できる機会は少ない状況です。より早い段階から製薬企業様とタッグを組ませていただくことで、例えば当社の看護師が疾患に関して持っている情報をMR様にご提供したり、あるいは「PSPプログラムにこういった項目を追加したほうがいいのではないでしょうか」というようなご提案をしたりもできると思っています。MR様も含めて、もう少し早い段階からコミュニケーションを取ることで、製薬企業様に「PSPを積極的にやっていこう」という後押しができるのではないでしょうか。

城間:ありがとうございます。実際、PSPのサービスは今後もますます大きく発展していく中で、様々な競合企業も提供していく状況になるのではないかと認識しています。今後の差別化のために、どういった点を御社の強みとして出していくのでしょうか。

塚前:競合企業様は有資格者を中心としたサービスを提供していると思いますが、当社は有資格者以外の一般コミュニケーターも在籍しているので、有資格者以外で色々なサポートができる部分もあると思います。有資格者と有資格者以外の組み合わせでサービスをご提供できることが、当社の強みのひとつです。

もうひとつ考えられるのが、先ほどPSPサービスの紹介がハードルだと指摘しましたが、場合によってはPSPプログラムのアウトバウンドの紹介をお手伝いさせていただくことで、プログラムの参加者も結果的に増えると考えられます。

PSPサービスのアウトバウンドはまだ経験していないのですが、一般の医療機関様への製品の情報提供は当社も経験があり、先生にご説明する段階まで至るケースもあります。

城間:なるほど。先ほど塚前さんのプレゼンの中で、まさにアウトバンドのお話をされていて、非常に興味深いなと思っていました。確かにそういったソリューションを提供できると非常にニーズがありそうですね。逆に塚前さんから、もしメディウィルや疾患啓発に関するご質問やご指摘があれば、ぜひお願いします。

塚前:医療情報は一般的にインターネットで検索されているものの、実際の患者様が取る次のアクションは、ガクンと落ちている印象を持っています。例えば検索サイトで見ても、質問サイトで聞いてみる行動はあまり見られないのではないかと思っています。この傾向はある程度医療情報について調べて理解されたうえでのことなのか、あるいは、もう少し様子見してみようかと判断されたので次のアクションにつながらないのか、城間さんのご見解はいかがでしょうか。

城間:検索が健康医療情報との相性が良いことは、先ほどの総務省のアンケート調査でもあったように、7~8割の方が検索で探していることが判明しています。一方で塚前さんが仰っていたようなQ&Aサイト、例えばYahoo!知恵袋のようなサイトでは、そこまで比率が高くありません。コンテンツ自体はあるものの、特に健康医療情報の場合はQ&Aサイトに載っている情報の確からしさへの信頼性が低い点が、なかなか使われない理由のひとつではないかと思いました。

一方で、信頼性の高い情報、例えばコロナ禍で増えてきたオンライン診療や、例えばLINEドクターが当てはまりますが、今は直接専門家やドクターにオンライン上で相談にとどまらず診察までしてもらえる時代になりつつあります。そういった意味で、この5年ほどで状況は大きく変化してきていると思います。ただ、本当にじわじわと広がっているというのが実情ですので、例えば検索してサイトを見た後でコールセンターに電話したり、病院検索を使ったりといったサイト上での行動変容をしてもらうためには、先ほども少しお伝えしたUIをはじめとしたWeb上での工夫や小さな改善の積み重ねが重要な領域になってきます。人を動かして行動変容してもらうことは、本当に難しいことだと思います。

塚前:もう一点お聞きしたいのですが、「くるこつ広場」の実際のホームページを拝見しました。そこに電話で問い合わせできる導線がありますが、実際にそこからお電話をされて受診につながった割合は、電話をしなかった場合と比べて、どのぐらい効果があったのでしょうか? 検証は難しいかと思いますが……。

城間:コールセンターを設置したことで相談する方が一定数いらっしゃることは、実際に確認できています。その後受診・診断につながったケースも出てきていることは、非常に大きなポイントだと感じています。ただ、塚前さんが仰る通り、我々がインターネットのサービスをする中で、リアルで何が起こっているか把握することは非常に難しいところで、大きな課題でもあり、チャレンジでもあります。ベルシステム24様のサービスをはじめ、コールセンターのオペレーターの方々が、実際にインターネットとリアルをつないでくださることによって、後押しにもガイドにもなります。インターネットというデジタルサービスとコールセンターでの有資格者の方々による相談というリアルとの掛け合わせが、非常に重要になってくると感じています。

患者さんのお役に立てているかどうかをリアルに確認することは、本当にハードルが高いことだと常々思っています。コールセンターというソリューションのおかげで、実際どのように患者さんの役に立っているのかも見えてくる部分が確かにあるので、非常に重要なソリューションだと感じていますね。

(以下、太字部分は参加者からの質問)

伊藤忠グループの例示にPSP情報を会員に提供と記載がありましたが、会員は自ら情報を知っている医師に限られますか? 非専門医など疾患情報が不足しており、患者の掘り起こしにつながるような医師へのアプローチはありますか?

塚前:例えば、Docquiltyというコミュニケーションツールを持っている会社があります。もともとアジアを中心に広がっているツールで、ドクターネットワークの中での情報交換や、専門医と非専門医がコミュニケーションできるような環境を提供するサービスを展開しています。アジアで情報提供されている外資系企業様を中心にDocquiltyの存在が知られていることから、日本で展開する可能性について製薬企業様に色々とヒアリングしている状況です。

有資格者には看護師の方が多いというお話がありましたが、保健師や栄養士から受診を促したり、治療を後押ししたりするといったことは実現可能でしょうか? その場合、医師からではなく行政からの説明も必要になると思います。

塚前:現状、看護師のサービスとして提供しています。PSP自体が看護師から患者様に紹介することに関して認可されてサービスが展開していますので、他の有資格者でどのぐらい効果があるかは少しわからないところがあります。

看護師は患者様の病状に関してしっかり受け答えできる職種です。薬剤師のように薬には詳しくないにしても、例えば心不全患者様の体重が結構増えている場合に看護師から見れば「心不全が悪化している可能性がある」と推測できるように、症状から患者さんとコミュニケーションをとって受診を促す対応がとれます。個人的には、PSPサービスは看護師さんが非常に職能を発揮できるサービスではないかと考えています。

医師の働き方改革が進む中で、医師以外のどなたかが現場をサポートする必要があると思います。医療機関の看護師やコールセンター、SaMD(Software as a Medical Device)などが当たると思いますが、ベルシステム24としてはどこまで踏み込んでいく予定ですか? 例えば規制を変えていくほか、MR、医師、看護師の代替としてどこを狙いますか? 医師の働き方改革と関連して、どこまで御社のソリューションを提供していくのでしょうか?

塚前:実は当社は医療機関様に派遣して医療事務周りのBPOの仕事を行っていまして、実際に少しずつ増えている状況です。今回のPSPサービスとは異なりますが、広い部分で医療機関様の医療事務回りのアウトソーシングに取り組んでいきたいですね。また、AIを活用した紙書類からの文字を認識するAI-OCRのような技術も持っていますので、そういった側面から医療機関様の業務を経験できればと考えています。

PSPの費用対効果に関する話がありましたが、PSPの効果検証は難しいと考えています。KPIとして、製品そのものの売り上げを検証材料としていますか?

塚前:製品の売上をKPIとしている事例は、私が知る限りはおそらくないと思いますし、なかなかそこは難しいです。繰り返しになりますが、ある程度の方にプログラムに参加していただく必要がありまして、例えば当社がどのぐらいお客様にサービスを提供できるかは件数にも比例しますし、当社がどのくらい看護師をサービスに当て込むのかにも関係してきます。製薬企業様には難しい部分もあるかと思いますが、例えば100人の方が参加する予定が極端に減って10人程度になると、予定していた看護師の数をどうしても減らしていくことになります。やはり最初にPSPの設計をする、あるいはサービスのメニューをしっかり用意する中で、準備する看護師のコミュニケーターが50人なのか100人なのか、お互いがしっかりコミュニケーションを取っていく握りが大切になっていきます。例えば50名の患者様からどのくらい当社で決めたコンタクトが取れたかどうかは、しっかり私どもも追います。また、患者様がどういったご不満やご要望をお持ちなのか把握したり、あるいは「このサービスは非常にいいね」と言っていただくようなコミュニケーションをとったりすることができると思います。最初の入り口が、かなり重要だと考えています。

城間:仰る通りだと思います。疾患啓発のプロジェクトでも、塚前さんが仰っていた課題がよくあります。効果検証、費用対効果をどう考えていくか、まさに最初の設計とKPIを、最後の売り上げや製品などに紐づけることが非常に難しいと感じます。最初の導入のところでしっかりと議論して目線を合わせることが重要というのは、本当にその通りだと思いました。

実際にPSPを行っております。その中で、
①症例登録でいつも苦労していますが、何かいい対策はありますか?
②症例登録に伴い、有害事象の数の増加にも悩んでおりますが、この辺りはどのように対応されてますでしょうか?

城間:こちらのご質問は個別相談をされたほうがよいかもしれませんね。

塚前:患者様のエントリーについては色々な登録方法があると思います。ご高齢の方なら多分電話がいいと思います。また、「電話は少し面倒くさい」という方にQRコードをご用意してそこから登録画面に入っていただいたことは、PSPの事例ではありませんが、あるサービスで登録を増やす取り組みとして行ったことがあります。

ペイシェントジャーニーとペイシェントフローの2つの用語を使われていましたが、どういった定義で使い分けていますか?

城間:ほぼ同じ同義で使っています。企業によってはペイシェントフローという言い方をされる方もいらっしゃいますし、基本的に概念としては同じものとして使っております。

医療機関がホームページを掲載している割合は全国で何パーセントぐらいあるでしょうか? 患者さんが当該疾患の受診候補施設をアプリで見たのちに、医療機関自体のホームページがないケースがあると思います。

城間:まず病院なのか診療所なのか、そして診療科は何なのかによって異なってきます。大病院の規模になると、ほぼ100%ホームページがあると実感しています。クリニックでは年配のドクターがやられていたり、地方にあったりして最初からずっとホームページがないケースもありますが、それでも全体の7~8割ぐらいにはホームページがあるという印象です。メディウィルを創業した2006年時点で、歯科業界のクリニックのホームページ開設率は約15%でした。医科の診療所も同程度だったので、当時はいわゆるクリニックや開業医の施設はホームページがないケースが多かったのですが、今やホームページがある前提で、そこから予約のシステムや事前の問診など色々なサービスが提供されています。

細かい話になりますが、ホームページにもいくつか種類があり、自社ドメインでのホームページを持っているのか、どこかの病院検索サービスのドメインによるサイトなのかでも違ってきます。定義にもよりますが、ホームページをベースに情報発信していくことがほぼスタンダードになっている印象はあります。特にコロナ禍では、活発にホームページを活用して情報更新していらっしゃる医療機関が本当に多いと感じました。我々はそういった情報発信のサポートをしていますので、弊社のサポート事業部もいつも大にぎわいの状況です。

本日の講演でモバイルファーストの話がありました。これは高齢者の罹患が多いパーキンソン病やがんでも同様の傾向なのでしょうか?

城間:高齢者を何歳と定義するか考慮する必要はありますが、先ほどデータでもお示ししたように、60~70代の方々も今はモバイルを利用する比率が高く、モバイルや少し画面サイズが大きいタブレット端末などからのアクセスが一定数あります。そのためまずは全世代でモバイルから考えることが、今では非常に重要です。もちろんPCや画面サイズが大きいタブレットもある程度の比率を占めているので、両方で考える必要はありますが、モバイルを優先する意識が大切です。ホームページからそのまま電話するという、モバイルだからこそできる利点もあります。特にコールセンターにつなげたいニーズがある場合、アクセスしたサイトからスムーズに行動変容してもらう導線をモバイルファーストでしっかりと設計していくことが、非常に重要なポイントになると思います。

患者さんが間違った情報に引っかからないようにするSEO対策は可能なのでしょうか?

城間:そもそも前提として、製薬企業・医療機器メーカー様が発信する医療情報は多くのチェック・審査を経て世の中に出ていくものなので、非常に上位表示されやすいサイトコンテンツといえます。これはGoogleの検索エンジンでE-E-A-T(専門性・Expertise、経験・Experience、信頼性・Trustworthiness、権威性・Authoritativeness)などを有している情報を上位表示させるアルゴリズムがあり、例えば国立がんセンターや厚労省のサイト、東大病院のような大学病院のコンテンツなどは非常に上位表示されやすいです。その上で製薬企業、医療機器メーカーの皆様がお使いになるドメインは非常に評価されていることから、企業のリンクがあるコンテンツも上位表示されやすくなっています。間違った情報が上位表示されることも2016~2017年ごろはあり、当時WELQが引き起こした情報問題をきっかけに、Googleのアルゴリズムが先ほど申し上げたE-E-A-Tというベースに一気に変えられました。日本の検索結果にも変化が起きたので、以前より間違った情報が上位表示されづらい環境になっています。そのため「しっかりした情報を提供する」という意味では、製薬企業・医療機器メーカー様がしっかりKOLの監修のもとに作成し、企業内部の審査を通して出すコンテンツは価値が非常に高いので、その過程自体がすでにSEO対策になっているという理解でよいと思っています。

医療分野では、こうした検索による情報アクセスがほかの分野と比べるとかなり遅れているのではないかと思いますが、その背景には何がありますか? 今後、スピードアップするためのポイントはなんでしょうか?

城間:先ほどの話とも少し関連するかと思いますが、健康・医療情報に対する情報収集という観点でいうと、色々な業界と比較した際の全体的な比率は高いほうです。Googleでも同様の認識をしていて、キーワードの分析をしていくと、他の業界よりも実は健康・医療に関するキーワード検索機能が高いという傾向が出ています。そういった意味では、実は昔から健康・医療に対する検索情報ニーズがあると思います。

あとは情報提供のニーズはあるけれど、そこに対して正しい健康・医療情報が提供できているのかという点で、先ほど2016~17年ごろの問題も挙げましたが、正しい健康医療情報自体がまだまだインターネット上で不足しているのではないかと感じています。特に患者さん向けの情報が、今後重要になってくると考えています。我々も疾患啓発のプロジェクトなどをご支援する中で、患者さんの体験談の記事や動画をインタビューから作成するケースも出てきています。特に希少疾患の場合、10年くらい診断がつかず、長年困っている患者さんもいるという体験談を目にするにつけ、体験談のコンテンツが検索ニーズのあるお困りの方にきちんと届くことで受診につながるとも考えています。質の高い患者さんの情報は、今後もますます重要かと思います。

もちろん製薬企業・医療機器メーカーの皆様は医療従事者向けのしっかりとした情報提供を優先するでしょうし、薬剤情報のフィードバックは本当に一番重要な仕事のひとつだと思います。ただ、そこに加えて今回のテーマであるペイシェントジャーニーに添った形で患者さん向けのプロジェクトを、会社を挙げて進めているケースも増えてきている実感があります。特にグローバル企業様を中心に、非常にペイシェント側に向いた取り組みに力を入れていると感じますので、そういったコンテンツが今後ますます増えていくといいな、と感じています。

※1 メディウィルでは、ペイシェントジャーニーにまつわる活動のなかで患者さんの心にも寄り添いたいという思いを込めて、「沿う」ではなく「添う」の漢字を使用しております。

「患者受診を促す」行動変容を起こした、具体的な事例はありますか? 症状がある病気は、患者自身が医療機関を検索するかと思いますが、症状がない病気(健診値だけ悪いなど)は早期発見が遅れる傾向にあると思い、お伺いした次第です。

城間:仰る通りだと思います。インターネット上での行動を考えると、検索という行動自体が非常に能動的な行動なので、無症状の方を動かすことはすごく難易度が高いです。患者受診を促す場合、症状がある疾患からつながるケースは、実際に確認を取れているというよりは、症状からWebサイトへの流入が非常に多いことで確認しています。個別事例の紹介は控えますが、色々な疾患にその疾患に特徴的な症状がありますので、自身にそういった症状が見られる方が、「もしかしたらこういう疾患かもしれない」と思い至ることを期待して記事を作成して流入を促すことを、メディウィルでは昔からよく行っています。

例えば歯科医院の場合、入れ歯を考えている方が検索した際に、実はインプラントという選択肢があることを知らずに探している場合があります。そのような入れ歯の情報を探している方に、インプラントの情報をちゃんと選択肢として提供できる導線を作ることをよく行っています。また似たような疾患に間違えられやすい希少疾患のケースでは、実際にデジタル広告を打って、間違えられやすい疾患名からの流入を目指すという策もとっています。特に疾患名がわからない場合の疾患啓発をどう築くかは本当に重要テーマですので、考えられる手法はあの手この手でやっています。もし具体的にご興味あれば、ぜひご相談いただければと思います。

症状がない病気に関して、健診値だけが悪いために早期発見が遅れるというのは本当にその通りです。ここは少しまた別のサービスになると思うのですが、受診勧奨・重症化予防として、数値が悪い方への啓発としてはがきを送って、実際に受診を促すといった行政による疾患啓発の取り組みをお手伝いしたケースもございます。

特殊な疾患の場合、サービス展開後、早い段階でより多くの該当施設に御社サービスへの掲載許可をもらうかが重要な点になるかと思いますが、そのために御社が取り組まれていることは何かありますか?

城間:病院検索に関するご質問だと理解して回答しますと、まさに特殊な疾患で該当施設が少ないケースは大いにあると思います。弊社の場合はお客様のリソースで、具体的にはMRの皆様にデジタル病院検索の掲載許諾をとっていただくことで、リスト作りを進めています。例えばMRリソースがどうしても足りないケースで「メディウィル側で何かできないか」とご依頼されることもあるのですが、現時点ではそこまでフォローできていません。もちろん一部できることはあるのですが、特に該当施設が少ない場合は、できる限りお客様側で許諾をとってきていただくご協力をお願いしています。この点について具体的なご要望あれば、ぜひご相談いただければと思います。

城間:塚前さんから今まで回答してきたご質問について、何か追加でコメントはございますか?

塚前:最近とある製薬企業のテレビCMで、お姉さんが子宮頸がんになったというストーリーで検診受診を促すものがあります。子宮頸がんは自覚症状が乏しく、気づくためには検診をしっかり受けなければいけないことが起点になっているCMかと思います。症状に気づくことは難しいですが、気づいてもらうための後押しはヘルスケアに関わる我々や製薬企業様にとって、重要ではないかと思いながらお話を伺っていました。

城間:ありがとうございます。仰る通り、ワクチンの分野は啓発が非常に重要な分野だと認識しています。我々としても、本当にご支援できたら素晴らしいと常々思っている分野でもあります。特にワクチンに関しては、コロナによってワクチンに対する抵抗感は昔より薄れてきているのではないかと、個人的な感覚ですが思っています。そういった中で実際にワクチンの効果をしっかり理解してもらえるような啓発活動ができると、より良いと思いますね。まさに予防段階という、受診に至る前の段階でいかに防げるかがポイントになってくると思います。

メディウィルは、ペイシェントジャーニーについてベルシステム24様が取り組んでいるようなPSPの部分にまではなかなか着手できていません。だからこそその手前の段階で、疾患予防、検診受診につなげていく後押しを、まずデジタルマーケティングをフル活用してできることは全部行います。その上で生じるデジタル上での限界については、コールセンターをはじめとした他の様々なソリューションをうまく掛け合わせて、ペイシェントジャーニーのお役に立ちたいと思っています。

これからはペイシェントという概念よりももう少し広い概念、普通の生活者のライフジャーニーの中で、全般的に予防も含めた支援まで踏み込んでいく必要があると常々感じています。手前でどう防ぐかが重要な領域ですし、メディウィルが特にその分野でお役に立てるのではないかと思っています。自治体の取り組みをどう後押しするかも重要な局面だと感じていて、事例でお話しした東京都の発熱外来のような健康増進の取り組みが、実はまだまだ埋もれている部分もあります。そういった啓発の後押しをどのように行うのかという点も、今後のチャレンジのひとつかと思っています。

塚前さんから最後に、締めの言葉をいただけないでしょうか?

塚前:ベルシステム24が現在お手伝いしているのは治療フェーズの患者様で、できるだけ治療継続していただけるようにサポートをしています。今城間様が仰ったように病気になる手前の段階から対策することが一番重要なので、病気にならないようにした上で、もし病気になってしまったらしっかり治療していただくことになります。現在取り組んでいる業務内容はすごく限られていますが、我々もできれば(ペイシェントフローの)上流から、しっかりお手伝いしたいと思っていますし、今日改めてそう感じました。実際にベルシステム24では、コロナのコールセンターの支援をしております。今は感染が少し下火になっていますが、やはりワクチンを打てる方は継続して打てるシステムになっていますので、打てる方に対するワクチン接種をできるだけ後押ししていきたいと思います。

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投稿日:2023年10月31日

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